アップル・ショックの教訓――国家戦略「中国製造2025」は反日デモから生まれた
中国の経済成長が落ちていることにアップル・ショックの原因を求めるのは適切でなく、中国は今、「量から質へ」の新常態(ニューノーマル)に突入している。国家戦略「中国製造2025」に見られるように、徹底した研究開発への大型投資を重んじているので、その間はGDPは量的には成長しない。その分だけ、「2025年」までには、飛躍的な成長を半導体や宇宙開発などで遂げ、その後に質を高めた量的成長をも始めることになると、習近平は決意している。今はまさに「雌伏(しふく)の時」だと、位置づけているのである(詳細は拙著『「中国製造2025」の衝撃 習近平はいま何を目論んでいるのか』)。
今般のアップル・ショックは、中国の真相を正確に把握し、それに基づいた正確な戦略を練らなかった見返りが来たと見るべきではないだろうか。言論弾圧をするような国が世界の覇権を握るような事態にはなって欲しくないので、アメリカが中国に圧力をかけることには賛同する。しかし正しい圧力のかけ方をしないと逆襲され、日本の国益をも損ねる。
もっとも、昨年12月24日のコラム「日本の半導体はなぜ沈んでしまったのか?」で考察したように、アメリカがHuaweiを制裁するのは、その頭脳であるハイシリコン社の半導体の勢いが凄いからだ(中国国内で1位、世界トップ10で7位)。同盟国である日本の半導体さえ、アメリカの防衛上危険であり、安全保障を脅かすなどという口実で潰したのだから、アメリカを追い越すかもしれない中国のハイシリコン社などは、どんな口実を設けてでも、アメリカは潰しにかかるにちがいない。
ただ、日本製品不買運動により中国政府を突き動かしたあの若者の力が、選択的購買によって今度は世界経済を動かし、アメリカにだけでなく、連鎖反応的に日韓台にまで跳ね返るであろう現象にだけは留意しておいた方がいいだろう。
最後に気になるのはアップルのクックCEOは、習近平の母校である清華大学経済管理学院顧問委員会の委員の一人であるということだ。昨年12月27日のコラム「GAFAの内2社は習近平のお膝元」にも書いたように、クックはスノーデン事件があった2013年の10月に顧問委員会入りしている。その彼が今年の10月に顧問委員会から除名されるか否か、見ものではないか。少なくともクァルコムのCEOは昨年10月まで顧問委員会の委員だったが、2019年のメンバーからは除名されている。クックの扱いを習近平がどうするか、それを確認するのが、個人的には楽しみでならない。
[執筆者]遠藤 誉
1941年中国生まれ。中国革命戦を経験し1953年に日本帰国。東京福祉大学国際交流センター長、筑波大学名誉教授、理学博士。中国社会科学院社会学研究所客員研究員・教授などを歴任。著書に『「中国製造2025」の衝撃 習近平はいま何を目論んでいるのか』(2018年12月22日出版)、『習近平vs.トランプ 世界を制するのは誰か』、『毛沢東 日本軍と共謀した男』、『卡子(チャーズ) 中国建国の残火』(中英文版も)、『チャイナ・セブン <紅い皇帝>習近平』、『ネット大国中国 言論をめぐる攻防』、『チャイナ・ジャッジ 毛沢東になれなかった男』、『中国動漫新人類 日本のアニメと漫画が中国を動かす』など多数。
※当記事はYahoo!ニュース 個人からの転載です。