日ロ交渉:日本の対ロ対中外交敗北(1992)はもう取り返せない
こうして世界第二位の経済大国だった日本は凋落の一途を辿り、今や見る影もない。
安倍首相は習近平国家主席に「一帯一路に協力するから、どうか私を国賓として中国に招いて欲しい」と懇願し、そして「どうか私のメンツを立てて、習近平国家主席殿下には訪日していただきたい」とひれ伏して頼んでいる。
これがどれほど日本の国益を損ねるかは『「中国製造2025」の衝撃 習近平はいま何を目論んでいるか』で詳述した。
最悪のタイミングでのロシアとの北方領土問題交渉
日本経済が力を失い、ロシア経済もソ連崩壊以降それなりの回復を遂げ、ロシア国民の「領土」に対するナショナリズムは現在のロシア誕生以降、最高潮に達している。アメリカから経済制裁を受けて困窮しているとはいえ、プーチンと習近平は蜜月を演じており、ソ連時代のような中ソ対立の要素は消滅している。そして何よりも2010年以降は中国が世界第2位の経済大国となってしまい、日本の発言力など見る影もない。
プーチンは、それでも日本の経済支援が欲しいだけで、領土問題など、ロシアの国民感情を考えればゼロ歩も進まないだろう。
現にプーチンはあたかも領土問題を解決しそうな素振りだけをして安倍首相の要望に応えて首脳会談だけは重ねながら、1月23日(昨日)の日ロ共同記者発表では、領土に関しては一言も触れなかった。
プーチンの背後には習近平がいる。
昨年11月12日、プーチンは中国の企業代表団を北方4島に招聘して、大きな商談を進めている。安倍首相に対する当てつけで、「安倍に領土問題を諦めさせて、経済協力に誘い込むためだ」と中国のメディアは高笑い。
なぜなら、中国は「一帯一路」経済構想を北極圏にまで延ばそうとしており、そのために北海道の土地を買いまくっている。日本の北方領土に対して、日本が権利を主張するようなことがあってはならないと、陰でプーチンを操ってもいる。
中国の経済支援をしっかり取り付けておきたいプーチンは、安倍首相とは経済協力はしても、決して領土問題解決の方向には動かないであろうことは明確だ。
クリミア問題で欧米諸国による経済制裁を受けているからプーチンは日本に秋波を送り、習近平もまた米中対立で半導体のアメリカからの輸入が規制されているので日本に秋波を送るというファクターは否めない。しかし、そのようなことばかりに目を向けて「日本は前進した!」という存在しない希望的観測を日本国民に広げていくのは適切だとは思えない。
これまでの日本外交の敗北を直視し、それをどう生かすのか。至難の業だ。
[執筆者]遠藤 誉
1941年中国生まれ。中国革命戦を経験し1953年に日本帰国。東京福祉大学国際交流センター長、筑波大学名誉教授、理学博士。中国社会科学院社会学研究所客員研究員・教授などを歴任。著書に『「中国製造2025」の衝撃 習近平はいま何を目論んでいるのか』(2018年12月22日出版)、『習近平vs.トランプ 世界を制するのは誰か』、『毛沢東 日本軍と共謀した男』、『卡子(チャーズ) 中国建国の残火』(中英文版も)、『チャイナ・セブン <紅い皇帝>習近平』、『ネット大国中国 言論をめぐる攻防』、『チャイナ・ジャッジ 毛沢東になれなかった男』、『中国動漫新人類 日本のアニメと漫画が中国を動かす』など多数。
※当記事はYahoo!ニュース 個人からの転載です。