株主総会を無視したゴーン「ルノー高額報酬」事件
カルロス・ゴーン氏はかねてから、「日産はグローバル企業。報酬も国際基準で判断すべきだ」といっている。「週刊ダイヤモンド」によれば、この6月の日産自動車の定時株主総会でも完成車の無資格検査問題があるにもかかわらず、「日産CEOの報酬は非常に低い。会社の規模や優秀なリーダーを持つ重要性を考えると、決して不当な水準とは思えない」と言ったそうだ。
しかしこれは間違いである。ゴーン氏の報酬レベルは「英米基準」であって、「国際基準」ではない。
2016年度のCAC40の経営者のトップは、スーパーマーケット「カルフール」で973万ユーロであった。日産の報酬は800万ユーロだったから、ルノーとの合計で1500万ユーロで断トツである。なお、同じ自動車のPSA プジョーシトロエンは、470万ユーロ、ゴーン氏が前にいたミシュランは330万ユーロである。
日本ではゴーン氏の高額報酬に対しての批判はほとんどなく、あってもモラルや情緒的なものだが、現代資本主義の論理からいってもおかしいのである。しかも、ゴーン氏は会社は株主のものだという土台さえ無視した。
当時、仏国会ではちょうど「汚職対策と経済生活の近代化法」(通称サパン法)の全面改正がおこなわれていた。
そしてゴーンの「株主無視事件」を背景に緊急に2つの修正案が出された。
一つは、左翼連合から出された、同じ企業の報酬の差は1から100倍以下にするというもので、国民議会(衆議院)委員会は通ったが本会議で1票差で否決された。
もう一つは、政府提案の株主総会決議に拘束力にもたせるというものである。これは、野党が多数を占める元老院(参議院)でも可決され、この年の12月に公布された。
いまでも「ゴーン修正」といわれる。
[執筆者]
広岡裕児
1954年、川崎市生まれ。大阪外国語大学フランス語科卒。パリ第三大学(ソルボンヌ・ヌーベル)留学後、フランス在住。フリージャーナリストおよびシンクタンクの一員として、パリ郊外の自治体プロジェクトをはじめ、さまざまな業務・研究報告・通訳・翻訳に携わる。代表作に『EU騒乱―テロと右傾化の次に来るもの』(新潮選書)、『エコノミストには絶対分からないEU危機』(文藝春秋社)、『皇族』(中央公論新社)他。
2024年11月26日号(11月19日発売)は「超解説 トランプ2.0」特集。電光石火の閣僚人事で世界に先制パンチ。第2次トランプ政権で次に起きること。[PLUS]驚きの閣僚リスト/分野別米投資ガイド
※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら