日本の潜水艦「おうりゅう」が世界に先駆けリチウムイオン電池を搭載──バッテリー稼働の時代
イスラエルに本社がある軍事用バッテリーメーカー、Epsilorのマーケティング&販売部長のフェルクス・フライシュ氏は、「リチウムイオンバッテリーはあらゆるエレクトロニクス産業に大きな影響を与えているが、防衛産業も今、ドラマチックな変化の時を迎えている」と同社のブログ記事に書いている。その理由の一つは、リチウムイオンバッテリーのコストが10年ほど前の5分の1程度まで下がっていることだ。2022年には、さらに現状の半分まで下がるとみられる。また、安全性・信頼性を含む総合性能が上がり、大型の防衛機器での使用に耐えるものも出てきているのは、「おうりゅう」の登場で証明されたところだ。
軍事用でも、無線機、衛星通信機器、熱探知カメラなどのポータブル機器、ECM・ESMなどの電子戦装置などでは、既に10年ほど前からリチウムイオンバッテリーが使われている。フライシュ氏は、昨年8月の時点で、今後5年間で軍用車両、船舶、シェルター、航空機、ミサイルなどの「ヘビーデューティーな機材」にも、リチウムイオンバッテリーの使用は広がると予測している。
近代戦で必須の「サイレント・ウォッチ」
現代の戦争は大国同士の軍隊がぶつかり合うものではなく、民間人に紛れた武装勢力やゲリラとの戦闘がほとんどだ。そうしたケースでは、正規軍の方にも隠密行動が求められる。例えば、各国の陸軍を代表する兵器と言えば主力戦車や装輪装甲車だが、これらにも今は潜水艦のような静粛性が求められている。そのため、各国の軍隊で高性能バッテリーの需要が高まっているという。
特に高性能バッテリーとの関連性が挙げられるのが、 「サイレント・ウォッチ」という夜間監視・偵察活動だ。敵に気づかれないように夜間の警戒任務に当たる戦車や装甲車はエンジンを止め、バッテリーのみで監視装置や武器を使用できるようにしなければならない。鉛蓄電池を8個から10個搭載する現行車両が「サイレント・ウォッチ」任務につけるのはせいぜい4、5時間。例えば中東の夜は10時間から14時間続くが、同等のリチウムイオンバッテリーに置き換えれば12時間程度監視任務を持続できるとされる。つまり、ほぼ夜通しの任務遂行が可能となる。
現在、アメリカやイスラエルの軍産複合体が「サイレント・ウォッチ」を見据えたリチウムイオンバッテリーを開発中だという。また、デンマーク陸軍は既にリン酸鉄リチウムイオン(LiFePO4)バッテリー搭載型のピラーニャV装輪式兵員輸送車を発注済。イタリア軍が採用しているフレッチャ歩兵戦車、チェンタウロ戦闘偵察車も、次期タイプではリチウムイオンバッテリーを搭載するとみられる。さらに、イスラエルのエイタン装輪装甲車もハイブリッドになると見られ、インド軍も10年以内に2,600両以上のリチウムイオンバッテリーを搭載した歩兵戦闘車を配備しようとしているという(フライシュ氏)。
山の暮らしにも欠かせないリチウムイオンバッテリー
最も過酷な使用状況が想定される軍用で普及すれば、民間でも一気にイノベーションが進む。これまで多くの分野で見られてきたパターンだ。スマートフォン、ノートパソコン、デジタルカメラといった既にリチウムイオンバッテリーの使用が前提となっている小型家電の多くは、現代の都市生活には欠かせないものとなっているが、より過酷な環境で使われる機器も、バッテリー駆動に移行していく流れはある。
筆者は、東京から長野県の山間地に移住して今年で7年目になる。自宅は急斜面に立つ山小屋で、氷点下15度になる冬は薪ストーブで暖を取る生活だ。その薪づくりなどの山仕事に電動工具を使う機会は多い。別荘地の中にあるため、家に電気は引かれているが、コードレスで使える機器であれば使用範囲が広がり、生活の質も上がる。実際、業務用ではガソリンエンジン式が主流のチェーンソーや草刈り機といった大きなパワーを必要とする機材にも、バッテリー式が普及の兆しを見せている。