最新記事

ウイグル

漢人の天国、少数民族の地獄。「多様な」街 南新疆カシュガルレポート

2018年11月9日(金)13時05分
林毅

Lin Yi

<「再教育キャンプ」が世界的に批判される中国の新疆ウイグル自治区。ジャーナリストも足を踏み入れにくいこの地を訪れて見えた、「もう1つのウイグル」報告>

「この街にはホットラインがあって、受話器を上げてから60秒以内に警察が通報者のところに駆けつけることになっている 。いいか、話し終えてからじゃなく『受話器を上げてから』だ。自分がどこにいるかだって言う必要なんてないんだ。それに、全ての商店のカメラはシステムに繋がっているから、もし喧嘩やもめ事があったら自動で通報されるようになっている。マンションも全部、複層のカード式セキュリティになってるしね。北京とかだってこんなじゃないだろう?多分今のここは世界一安全な街だよ」

hayashi181109-2.jpg

カシュガル市街 Lin Yi

そう、漢民族の若い運転手は笑いながら口にした。彼が新疆ウイグル自治区最大の都市 カシュガルに移り住んだのは03年、もう15年も前のことだ。その頃の大家だったウイグル人教師から学んだおかげで漢民族としては珍しくウイグル語を解する彼は、それでも少数民族とは距離を感じている。

「僕たちは基本的に分かれて住んでいる。別に法律や規則で決められているわけじゃないけど、生活習慣ってやつが違いすぎるからね。彼らは夜中までうるさいし、体からなんとも言えない匂いがする。仮に家賃が半分だったとしても同じエリアに住もうとは思わないな、正直。」

主要なものだけで13の少数民族が住み、8か国と国境を接することから新しい疆=境界と名付けられた新疆ウイグル自治区。古来シルクロードを通じて行き来する異質な人や文化が出会い、時にはぶつかり合う場所だったここは今、アメリカと中国の衝突の火種のひとつとしてにわかに国際的な注目を集めている。今回は、そのカシュガルを旅した記録だ。

「対テロ最前線」カシュガルの威圧的な警備は、漢民族に対しては緩い

カシュガルとその他の地域との明らかな雰囲気の違いは、人口の9割以上を占める少数民族や立ち込める砂煙、色鮮やかなイスラム建築やバザールがもたらす異国情緒からのみ生まれるわけではない。外から来た人々を驚かせるのは、あたかも戦時中であるかのような厳戒態勢だろう。

hayashi181109-3.jpg

どこにでも通報から60秒以内に到着できるとあって、数えきれないほどの警察官が街中を歩いている Lin Yi

林立する監視カメラ、鉄柵で覆われた商店、各所で行われている検問、地図にない公安施設、通りごとにしつこいくらい見かける突入防止用のブロックで覆われた交番、そして到るところで見かける自警団、警察、特警、人民解放軍の立哨歩哨。これらの人々や施設は基本的に撮影禁止で、見つかると拘束されることもある。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

ウクライナとの占領地域交換交渉、「決してしない」と

ワールド

イスラエル軍が予備役招集、ガザ戦闘再開備え 仲介国

ワールド

中国がロシアの無人機製造支援、西側部品密輸拠点に=

ビジネス

スターゲート次第で、投資はこれから少し加速する=ソ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ガザ所有
特集:ガザ所有
2025年2月18日号(2/12発売)

和平実現のためトランプがぶち上げた驚愕の「リゾート化」計画が現実に?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「健康寿命」を延ばすのは「少食」と「皮下脂肪」だった...スーパーエイジャーに学ぶ「長寿体質」
  • 2
    2025年2月12日は獅子座の満月「スノームーン」...観察方法や特徴を紹介
  • 3
    iPhoneで初めてポルノアプリが利用可能に...アップルは激怒
  • 4
    世界のパートナーはアメリカから中国に?...USAID凍…
  • 5
    フェイク動画でUSAIDを攻撃...Xで拡散される「ロシア…
  • 6
    研究者も驚いた「親のえこひいき」最新研究 兄弟姉…
  • 7
    便秘が「大腸がんリスク」であるとは、実は証明され…
  • 8
    【一発アウト】税務署が「怪しい!」と思う通帳とは?
  • 9
    メーガン妃の最新インスタグラム動画がアメリカで大…
  • 10
    0.39秒が明暗を分けた...アルペンスキーW杯で五輪メ…
  • 1
    【一発アウト】税務署が「怪しい!」と思う通帳とは?
  • 2
    「健康寿命」を延ばすのは「少食」と「皮下脂肪」だった...スーパーエイジャーに学ぶ「長寿体質」
  • 3
    教職不人気で加速する「教員の学力低下」の深刻度
  • 4
    「体が1日中だるい...」原因は食事にあり? エネルギ…
  • 5
    戦場に響き渡る叫び声...「尋問映像」で話題の北朝鮮…
  • 6
    Netflixが真面目に宣伝さえすれば...世界一の名作ド…
  • 7
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 8
    研究者も驚いた「親のえこひいき」最新研究 兄弟姉…
  • 9
    メーガン妃の最新インスタグラム動画がアメリカで大…
  • 10
    1日大さじ1杯でOK!「細胞の老化」や「体重の増加」…
  • 1
    週刊文春は「訂正」を出す必要などなかった
  • 2
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 3
    【一発アウト】税務署が「怪しい!」と思う通帳とは?
  • 4
    有害なティーバッグをどう見分けるか?...研究者のア…
  • 5
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者…
  • 6
    1日大さじ1杯でOK!「細胞の老化」や「体重の増加」…
  • 7
    「健康寿命」を延ばすのは「少食」と「皮下脂肪」だ…
  • 8
    失礼すぎる!「1人ディズニー」を楽しむ男性に、女性…
  • 9
    世界初の研究:コーヒーは「飲む時間帯」で健康効果…
  • 10
    戦場に「杖をつく兵士」を送り込むロシア軍...負傷兵…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中