独メルケル首相の引退はEU改革に吉か凶か?
メルケル氏は、ユーロ圏の財政分野にある「南北格差」に関しては周縁国への支援に否定的なドイツ国内のタカ派をなだめる上で大きな役割を果たしてきた。また自身が旧ソ連圏の東ドイツで暮らした経験を踏まえ、最近ではEU補助金や人権問題を巡る「東西対立」で橋渡しに携わっている。
この外交官は「中東欧にとっては、共産党独裁政治の国で生活することの意味を本当に知っているドイツの首相を味方につけていたのはとてつもなく有利な要素だった。その大事さは、失った後でしか分からないだろう」としみじみと語った。
グッテンバーグ氏は、ドイツはこの先も全般的な親EU姿勢やブレグジットに対するEUの既存の方針を守り、イタリアが試みているEUの財政ルール破壊に反対すると予想しつつも、欧州統合の進化に向けた「建設的な」動きはしばらくお休みになるとみている。
一方でシティバンクのエコノミストチームは、ドイツの地方選挙で緑の党が躍進したことがユーロ圏改革にとって追い風となり、フランスで難局に立ち向かうために中道勢力が広範な支持を集めてマクロン氏を大統領の座につかせたように、ドイツでも同じような動きを呼び起こす可能性があるとの見方を示した。
「親EUの緑の党の台頭は、少なくともユーロ圏にとって大きなプラスになり得る」という。
欧州緑の党のフィリップ・ランベール共同代表は「メルケル氏がCDUの統制力を失うとすれば、それはドイツ国内で欧州統合のアイデア自体が失われることになる」と警戒する。それでも、メルケル氏がしがらみから解き放たれ、国民に必ずしもドイツのためにならない改革を受け入れるよう力を注げるようになった点は希望が持てるとの考えだ。
INGジャーマニーのエコノミスト、カルステン・ブゼスキ氏も同意見で、メルケル氏は政治的な遺産(レガシー)を残すための自由を得たと指摘し、ドイツ経済と通貨同盟の改革により大胆に踏み込んでいく可能性があると付け加えた。
シンクタンクのフレンズ・オブ・ヨーロッパのジャイルズ・メリット会長は、メルケル氏の下でドイツは財政黒字を抑制できず、ユーロに緊張をもたらしたと指摘。「『メルケル後』の(政治の)不安定化や混乱を懸念するのは分かるが、近視眼的だ。メルケル氏が退場するという見通しは、ドイツの有権者を自分たちにとって短期的利益より大きな利益、つまり欧州統合へと回帰させる触媒となると期待できる」と述べた。
(Alastair Macdonald記者)
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