最新記事

人権問題

サウジとカナダが人権問題めぐり対立、サウジはカナダ資産売却を指示

Saudi Arabia Crucifies Man Amid Human Rights Dispute

2018年8月9日(木)20時45分
ブレンダン・コール

サウジの人権侵害に噛みついたカナダのフリーランド外相(左)とトルドー首相 Reinhard Krause-REUTERS

<女性の運転や映画館を解禁するなどリベラルな改革で話題だったサウジアラビアが、カナダの外相から人権侵害を指摘されて激怒、トランプばりの報復を繰り出した>

サウジアラビアの人権問題をカナダ外相が批判したことで両国関係は急速に険悪化している。そんななか、サウジアラビアはイスラム教の聖地メッカで男を公開処刑にした。

米ブルームバーグの報道によれば、ミャンマー国籍の男エリアス・アブルカラーム・ジャマデリーンは、ミャンマー人女性の家に侵入して銃を発砲後、刃物で刺して殺害した罪に問われていた。サウジアラビアのサルマン国王が男の処刑を承認した。

今回の公開処刑は、サウジアラビアとカナダの間で対立が深まる最中にこれ見よがしに執行されたともみえる。

対立の発端はこうだ。サウジアラビアは7月、女性の権利を訴える著名活動家、サマル・バダウィをはじめとする人権活動家たちを逮捕した。カナダのクリスティア・フリーランド外相は8月2日にツイッターでそれを批判し、彼女らの釈放を要求した。

「サマル・バダウィとライフ・バダウィの姉妹がサウジアラビアで拘束された。とても心配だ。カナダはいつもバダウィ一家と共にあり、ライフとサマル・バダウィの釈放を強く求め続ける」

サウジアラビアはこれに激しく反発。8月5日には駐カナダ大使を召還し、カナダとの貿易取引や投資受け入れを凍結した。

翌日には、サウジアラビア傘下の衛星テレビ局、アルアラビーヤが、カナダの刑務所が国際的な人権基準を満たしていないと批判する動画をツイート。さらに、ホロコースト否定論者のエルンスト・ツンデルという「良心の囚人」を収監していたこともある、とカナダ政府を批判した。

米同時多発テロを彷彿させる脅し

同日、サウジアラビア政府を支持する青年団体、インフォグラフィックKSAが、2001年の米同時多発テロを彷彿とさせる扇情的な画像をツイート。9.11と違うのは、標的がカナダであること。カナダ最大都市トロントのランドマークであるCNタワーにエア・カナダ機が突っ込む絵だ。説明文には、「関係のない問題に首を突っ込む者は痛い目にあう」と書かれている。

この投稿は35万人のフォロワーに送信されたが、すぐに削除された。インフォグラフィックKSAは謝罪し、画像は「駐カナダ大使の(サウジアラビアへの)召喚を象徴したかっただけで、他の意図はなかった」と釈明した。サウジアラビアのメディア省も、アカウントの削除を命じ、この件について調査すると表明した。

だが翌8月6日には、カナダに留学している1万6000人のサウジアラビア人学生への奨学金を停止し、カナダ国外の大学等に移すことを決定した。

英紙フィナンシャル・タイムズの8月8日の報道によれば、サウジアラビアはすでにカナダ資産の売却を始め、中央銀行と年金基金は外国資産のファンドマネジャーに対し、カナダの株式、債券、通貨を売却するよう指示したという。

カナダのフリーランド外相にひるむ気配はない。8月6日、こう言った。「カナダは今後も世界各地で人権と、基本的な権利を訴える勇敢な男女を擁護し続ける」

首相がアメリカのドナルド・トランプ大統領にも言いたいことを言う強さを併せ持ったリベラル派のジャスティン・トルドーもフリーランドの味方に違いない。だとすると、両国の対立は長引くかもしれない。

(翻訳:河原里香)

【お知らせ】ニューズウィーク日本版メルマガのご登録を!
気になる北朝鮮問題の動向から英国ロイヤルファミリーの話題まで、世界の動きを
ウイークデーの朝にお届けします。
ご登録(無料)はこちらから=>>

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

フィリピン副大統領弾劾訴追案、下院が承認 上院に送

ワールド

インドネシア、24年成長率は3年ぶり低水準の5.0

ビジネス

24年金需要は1%増で過去最高、今年も不確実性が下

ビジネス

野村HDの10―12月期、主要3部門の税前利益8割
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:中国経済ピークアウト
特集:中国経済ピークアウト
2025年2月11日号(2/ 4発売)

AIやEVは輝き、バブル崩壊と需要減が影を落とす。中国「14億経済」の現在地と未来図を読む

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「体が1日中だるい...」原因は食事にあり? エネルギー不足を補う「ある食品」で賢い選択を
  • 2
    1日大さじ1杯でOK!「細胞の老化」や「体重の増加」を予防するだけじゃない!?「リンゴ酢」のすごい健康効果
  • 3
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 4
    マイクロプラスチックが「脳の血流」を長期間にわた…
  • 5
    中国AI企業ディープシーク、米オープンAIのデータ『…
  • 6
    教職不人気で加速する「教員の学力低下」の深刻度
  • 7
    脳のパフォーマンスが「最高状態」になる室温とは?…
  • 8
    「靴下を履いて寝る」が実は正しい? 健康で快適な睡…
  • 9
    DeepSeekが「本当に大事件」である3つの理由...中国…
  • 10
    AIやEVが輝く一方で、バブルや不況の影が広がる.....…
  • 1
    週刊文春は「訂正」を出す必要などなかった
  • 2
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 3
    1日大さじ1杯でOK!「細胞の老化」や「体重の増加」を予防するだけじゃない!?「リンゴ酢」のすごい健康効果
  • 4
    「DeepSeekショック」の株価大暴落が回避された理由
  • 5
    今も続いている中国「一帯一路2.0」に、途上国が失望…
  • 6
    「靴下を履いて寝る」が実は正しい? 健康で快適な睡…
  • 7
    DeepSeekショックでNVIDIA転落...GPU市場の行方は? …
  • 8
    老化を防ぐ「食事パターン」とは?...長寿の腸内細菌…
  • 9
    足の爪に発見した「異変」、実は「癌」だった...怪我…
  • 10
    「やっぱりかわいい」10年ぶり復帰のキャメロン・デ…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    週刊文春は「訂正」を出す必要などなかった
  • 3
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 4
    有害なティーバッグをどう見分けるか?...研究者のア…
  • 5
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀…
  • 6
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 7
    「涙止まらん...」トリミングの結果、何の動物か分か…
  • 8
    「戦死証明書」を渡され...ロシアで戦死した北朝鮮兵…
  • 9
    1日大さじ1杯でOK!「細胞の老化」や「体重の増加」…
  • 10
    中国でインフルエンザ様の未知のウイルス「HMPV」流…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中