最新記事

中国

中国「小切手外交」で攻勢 南太平洋諸国を借金漬けに

2018年8月4日(土)12時58分

7月31日、トンガの不安定な立場は、南太平洋の小国を直撃している広範な「負債疲れ」を示している。写真は握手を交わすトンガのツポウ6世国王(左)と中国の習近平国家主席。北京で3月代表撮影(2018年 ロイター)

南太平洋に浮かぶ島国トンガの首都ヌクアロファでは約10年前、死者が出るほどの暴動が発生し、ビジネスや政府庁舎の集まる中心部の大半が破壊された。

がれきの中から、政府は新たなクルーズ船のための埠頭建設や王宮の修繕を含む市の再建策を打ち出した。

そうした一切の費用は、中国からの融資で賄われた。

中国からの融資は当初6500万ドル(約72億円)程度だったが、現在は1億1500万ドルを超える。1年間の国内総生産(GDP)のほぼ3分の1に相当する。利子が膨らんだほか、トンガ全土の道路開発のために新たな融資を受けたためだ。

元金返済計画が9月にスタートするが、トンガの年間元利払い費は約2倍に膨れ上がることになり、同国政府は対応に追われている。

トンガの不安定な立場は、南太平洋の小国を直撃している広範な「負債疲れ」を示している。同地域が財政難に陥り、中国からの外交圧力にますます影響を受けやすくなるという恐怖も駆り立てている。

特に、同地域の小国への融資は、台湾承認を巡る中台の影響力争いで、中国に「てこ」をもたらすことになる。台湾は同地域で強力な外交関係を築いており、同地域は世界有数の中台勢力争いの現場となっている。

ロイターは南太平洋の島国11カ国の財務書類を分析。その結果、この10年で中国の融資プログラムによる債務残高がほぼゼロから13億ドル超に膨れ上がっていることが明らかとなった。

オーストラリアが南太平洋地域に対して大規模な援助プログラムを提供しており、いまなお最大の支援国ではあるものの、2国間融資においては、いまや中国が最大の貸し手であることを財務書類は示している。

中国からの融資は、トンガの対外債務全体の6割以上、バヌアツのほぼ半分を占めている。金額では、パプアニューギニアが約5億9000万ドルと最大で、同国の対外債務全体の約4分の1を占めている。

「経済の脆弱(ぜいじゃく)性や収入源の希少さを踏まえれば、多くが過剰債務に陥るリスクが高い傾向にある」と、世界銀行のマイケル・カーフ局長(東ティモール・パプアニューギニア・太平洋島嶼国担当)はロイターの電話取材に対しこう語った。

「こうした国々の債務は持続可能と思われる限界に達しつつある」

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

FRBとECB利下げは今年3回、GDP下振れ ゴー

ワールド

ルペン氏に有罪判決、被選挙権停止で次期大統領選出馬

ビジネス

中国人民銀、アウトライトリバースレポで3月に800

ビジネス

独2月小売売上は予想超えも輸入価格が大幅上昇、消費
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:まだ世界が知らない 小さなSDGs
特集:まだ世界が知らない 小さなSDGs
2025年4月 1日号(3/25発売)

トランプの「逆風」をはね返す企業の努力が地球を救う

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 2
    ガムから有害物質が体内に取り込まれている...研究者が警鐘【最新研究】
  • 3
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「最大の戦果」...巡航ミサイル96発を破壊
  • 4
    磯遊びでは「注意が必要」...6歳の少年が「思わぬ生…
  • 5
    「炊き出し」現場ルポ 集まったのはホームレス、生…
  • 6
    メーガン妃のパスタ料理が賛否両論...「イタリアのお…
  • 7
    3500年前の粘土板の「くさび形文字」を解読...「意外…
  • 8
    なぜ「猛毒の魚」を大量に...アメリカ先住民がトゲの…
  • 9
    突然の痛風、原因は「贅沢」とは無縁の生活だった...…
  • 10
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 1
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山ダムから有毒の水が流出...惨状伝える映像
  • 2
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き詰った「時代遅れ企業」の行く末は?【アニメで解説】
  • 3
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 4
    【独占】テスラ株急落で大口投資家が本誌に激白「取…
  • 5
    800年前のペルーのミイラに刻まれた精緻すぎるタトゥ…
  • 6
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「…
  • 7
    ガムから有害物質が体内に取り込まれている...研究者…
  • 8
    一体なぜ、子供の遺骨に「肉を削がれた痕」が?...中…
  • 9
    「テスラ離れ」止まらず...「放火」続発のなか、手放…
  • 10
    「この巨大な線は何の影?」飛行機の窓から撮影され…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 3
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛ばす」理由とは?
  • 4
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山…
  • 5
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやス…
  • 6
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 7
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 8
    テスラ販売急減の衝撃...国別に見た「最も苦戦してい…
  • 9
    テスラ離れが急加速...世界中のオーナーが「見限る」…
  • 10
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中