最新記事

イラン

イランの穏健派ロウハニ大統領、通貨暴落と米制裁再開で窮地

Rouhani Faces Political Backlash Amid Economic Woes

2018年8月2日(木)16時45分
ジェイソン・レモン

1ドルとイランリアルの交換レートを示すテヘランの両替商(2016年) REUTERS/Raheb Homavandi/TIMA

<核合意を推進したイランの穏健派大統領ロウハニが苦しい立場に追い込まれている。景気が思ったほど回復しない上、トランプの経済制裁再開を前に通貨リアルの暴落が止まらない>

イランの大都市で生活苦に抗議するデモが続く中、国会はハッサン・ロウハニ大統領を召喚して経済政策の舵取りについて問い質す。

国会招致の日まで、ロウハニには1カ月の期間が与えられた。そこでこれまでの経済政策に対する責任を追及され、通貨リアルの暴落と物価高騰から生じた社会不安への対応策を聞かれることになるだろうと、米出資の自由欧州放送(プラハ)が8月1日に報じた。リアルは急落を続け、7月28日に1ドル=9万8000リアルだった為替レートは、翌日には11万2000リアルに達した。

イランは2015年、核兵器開発をやめる見返りに経済制裁を解除してもらう核合意(JCPOA)を欧米など6カ国と結んだのに、なぜ経済がほとんど改善しないのか、と国会議員たちは息巻いている。ドナルド・トランプ米大統領は今年5月、他の締結国や国連の反対を押し切って核合意から離脱したが、イギリス、フランス、ドイツ、中国、ロシアは合意を維持している。

合意から2年が経ったが、イランの銀行は海外の金融機関との取引を制限されたまま。当初ロウハニ政権は、核合意はイラン経済にとって大きな転機になると喧伝し、海外からの投資も激増すると主張していた。アメリカの制裁再開を8月6日に控え、ロウハニは政治的、社会的にいよいよ厳しい立場に立たされている。

7月31日にはイラン各地に抗議デモが広がり、ソーシャルメディアの投稿を見る限り、翌8月1日にも続いているもようだ。物価高に伴う生活苦と、汚職に対する怒りが相まって、昨年末から首都テヘランや他の都市で大規模デモが続発している。

経済制裁より深刻な問題も

ロウハニ政権は景気対策を打ち出すことでデモの沈静化を図ってきた。7月25日にはイラン中央銀行の総裁を交代させ、通貨リアルの安定を目標に掲げた。

「たとえ最悪の事態になっても、私はイラン国民に対して生活必需品の提供を約束する。砂糖、小麦、食用油は十分に備蓄している。市場介入するのに十分な外貨も確保している」、とロウハニは6月に言った。その際、通貨リアルの急落は「海外メディアのプロパガンダ」のせいだ、と批判した。

米コロンビア大学で教鞭をとるイラン専門家、ゲイリー・シックは7月30日、米政府系の海外向け放送ボイス・オブ・アメリカ(VOA)に出演した際、イランは石油や天然ガスなどの天然資源の管理に失敗し、経済的にマイナスの副作用を引き起こした、と語った。

「天然資源の管理と、(水資源の枯渇といった)環境問題への対策という両面で、イランは深刻な問題を抱えている。過去数十年にわたる失策のツケだ」、とシックは説明した。アメリカによる経済制裁の再開はイラン経済に悪影響を及ぼすことになるものの、長期的な問題の影響の方がはるかに深刻だという。

だがこうも言う。「経済制裁への恐怖から、イラン経済は確実に悪化した。通貨リアルが急落しているのも驚かない。次に何がイラン経済を待っているのか、誰にも分からないのだから」

(翻訳:河原里香)

【お知らせ】ニューズウィーク日本版メルマガのご登録を!
気になる北朝鮮問題の動向から英国ロイヤルファミリーの話題まで、世界の動きを
ウイークデーの朝にお届けします。
ご登録(無料)はこちらから=>>

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

トランプ氏、5月中旬にサウジ訪問を計画 初外遊=関

ワールド

ルペン氏に有罪判決、次期大統領選への出馬困難に 仏

ワールド

訂正-米テキサス州のはしか感染20%増、さらに拡大

ワールド

米民主上院議員、トランプ氏に中国との通商関係など見
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:引きこもるアメリカ
特集:引きこもるアメリカ
2025年4月 8日号(4/ 1発売)

トランプ外交で見捨てられ、ロシアの攻撃リスクにさらされるヨーロッパは日本にとって他人事なのか?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 2
    ガムから有害物質が体内に取り込まれている...研究者が警鐘【最新研究】
  • 3
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 4
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「…
  • 5
    磯遊びでは「注意が必要」...6歳の少年が「思わぬ生…
  • 6
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 7
    3500年前の粘土板の「くさび形文字」を解読...「意外…
  • 8
    メーガン妃のパスタ料理が賛否両論...「イタリアのお…
  • 9
    8日の予定が286日間に...「長すぎた宇宙旅行」から2…
  • 10
    なぜ「猛毒の魚」を大量に...アメリカ先住民がトゲの…
  • 1
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き詰った「時代遅れ企業」の行く末は?【アニメで解説】
  • 2
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 3
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山ダムから有毒の水が流出...惨状伝える映像
  • 4
    【独占】テスラ株急落で大口投資家が本誌に激白「取…
  • 5
    800年前のペルーのミイラに刻まれた精緻すぎるタトゥ…
  • 6
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「…
  • 7
    ガムから有害物質が体内に取り込まれている...研究者…
  • 8
    一体なぜ、子供の遺骨に「肉を削がれた痕」が?...中…
  • 9
    「この巨大な線は何の影?」飛行機の窓から撮影され…
  • 10
    現地人は下層労働者、給料も7分の1以下...友好国ニジ…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 3
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛ばす」理由とは?
  • 4
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山…
  • 5
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやス…
  • 6
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 7
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 8
    テスラ販売急減の衝撃...国別に見た「最も苦戦してい…
  • 9
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 10
    【クイズ】アメリカを貿易赤字にしている国...1位は…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中