最新記事

中東政策

トランプ政権、サウジ・UAEらと「アラブ版NATO」構想でイランに対抗へ

2018年7月31日(火)15時15分

7月27日、米トランプ政権が、中東地域におけるイランの勢力拡大に対抗するため、ペルシャ湾岸6カ国およびエジプト、ヨルダンとの間で新たな安全保障・政治同盟の構築を密かに進めている。写真は3月、ホワイトハウスでサウジアラビアのムハンマド皇太子(写真左)と会談するトランプ大統領(2018年 ロイター/Jonathan Ernst)

米トランプ政権が、中東地域におけるイランの勢力拡大に対抗するため、ペルシャ湾岸6カ国およびエジプト、ヨルダンとの間で新たな安全保障・政治同盟の構築を密かに進めている。米国とアラブ諸国の高官らが明らかにした。

関係筋4人によると、米政府はミサイル防衛、軍事訓練、テロ対策のほか、この地域での経済・外交関係強化に向け、同盟国との協力を深めたい意向。

米政府と中東の高官らはこの同盟を北大西洋条約機構(NATO)になぞらえ、イスラム教スンニ派による「アラブ版NATO」と呼ぶ。トランプ大統領の就任以来、米国とイスラム教シーア派国家イランの対立は激しさを増しており、この計画によってさらに緊張が高まりそうだ。

同盟の仮称は「中東戦略同盟(MESA)」。複数の関係筋によると、米政府は暫定的に10月12─13日にワシントンでの首脳会議を予定しており、この場でMESAについて協議する可能性がある。ただ関係筋らは、この日までに同盟計画が最終決定に至るかは不明だと釘を刺した。

ホワイトハウスは、中東の同盟国との間で「現在、そして数カ月前から」こうした構想を検討していることを確認した。

ある米高官によると、サウジアラビア高官が昨年、トランプ大統領のサウジ訪問に先立って同盟構想を提言したが、具体化しなかった経緯がある。

一部アラブ諸国の関係筋も、この計画を復活させる動きがあること述べた。

米国家安全保障会議(NSC)の報道官は「MESAはイランの攻撃、テロ、過激主義に対する防壁となり、中東に安定をもたらす」と述べた。トランプ大統領が10月12─13日にサミットを主催することについては確認を避けた。

過去の米政権も同様の構想を主導したことがあったが、いずれも実を結ばなかった。

同盟が成立すれば、湾岸の盟主サウジおよびアラブ首長国連邦(UAE)とトランプ政権が結束してイランに対抗する構図が鮮明になりそうだ。イエメンおよびシリアの紛争や、湾岸の石油海上輸送路の防衛といった面で、米国とスンニ派諸国の利害は一致している。

あるイラン高官はロイターに対し、「中東の安定確保という名目の下、米国と中東同盟諸国はこの地域の争いを煽っている」と述べ、亀裂が深まるだけだと批判した。

同盟構想の大きな障害になりかねないのが、サウジなど湾岸諸国によるカタールへの経済制裁だ。サウジなどは1年1カ月前からカタールがテロを支援しているとして制裁を続けているが、カタールには中東最大の米空軍基地がある。

ある米政府高官は、政府がこの点を懸念していると述べた。ただ、この高官とアラブ高官によると、サウジとUAEは制裁が障害にならないと米国に保証している。

(Yara Bayoumy記者 Jonathan Landay記者 Warren Strobel記者)

[ワシントン 27日 ロイター]


トムソンロイター・ジャパン

Copyright (C) 2018トムソンロイター・ジャパン(株)記事の無断転用を禁じます

20250408issue_cover150.png
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2025年4月8日号(4月1日発売)は「引きこもるアメリカ」特集。トランプ外交で見捨てられた欧州。プーチンの全面攻撃リスクにさらされるヨーロッパは日本にとって他人事なのか?

※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら


今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

ルペン氏に有罪判決、被選挙権停止で次期大統領選出馬

ビジネス

中国人民銀、アウトライトリバースレポで3月に800

ビジネス

独2月小売売上は予想超えも輸入価格が大幅上昇、消費

ビジネス

日産とルノー、株式の持ち合い義務10%に引き下げ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:まだ世界が知らない 小さなSDGs
特集:まだ世界が知らない 小さなSDGs
2025年4月 1日号(3/25発売)

トランプの「逆風」をはね返す企業の努力が地球を救う

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 2
    ガムから有害物質が体内に取り込まれている...研究者が警鐘【最新研究】
  • 3
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「最大の戦果」...巡航ミサイル96発を破壊
  • 4
    磯遊びでは「注意が必要」...6歳の少年が「思わぬ生…
  • 5
    「炊き出し」現場ルポ 集まったのはホームレス、生…
  • 6
    メーガン妃のパスタ料理が賛否両論...「イタリアのお…
  • 7
    3500年前の粘土板の「くさび形文字」を解読...「意外…
  • 8
    なぜ「猛毒の魚」を大量に...アメリカ先住民がトゲの…
  • 9
    突然の痛風、原因は「贅沢」とは無縁の生活だった...…
  • 10
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 1
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山ダムから有毒の水が流出...惨状伝える映像
  • 2
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き詰った「時代遅れ企業」の行く末は?【アニメで解説】
  • 3
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 4
    【独占】テスラ株急落で大口投資家が本誌に激白「取…
  • 5
    800年前のペルーのミイラに刻まれた精緻すぎるタトゥ…
  • 6
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「…
  • 7
    ガムから有害物質が体内に取り込まれている...研究者…
  • 8
    一体なぜ、子供の遺骨に「肉を削がれた痕」が?...中…
  • 9
    「テスラ離れ」止まらず...「放火」続発のなか、手放…
  • 10
    「この巨大な線は何の影?」飛行機の窓から撮影され…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 3
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛ばす」理由とは?
  • 4
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山…
  • 5
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやス…
  • 6
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 7
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 8
    テスラ販売急減の衝撃...国別に見た「最も苦戦してい…
  • 9
    テスラ離れが急加速...世界中のオーナーが「見限る」…
  • 10
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中