最新記事

イスラエル

自らを「ユダヤ人国家」と定めたイスラエルは、建国の理念も捨て去った

Israel’s ‘Nation-State’ Law Draws Racism Accusations

2018年7月20日(金)14時30分
デービッド・ブレナン

「ものごとを決めるのは多数派ユダヤ人だ」と言うネタニヤフ首相 Sebastian Scheiner-REUTERS

<独立宣言では、「宗教、人種、性別に関わらずすべての国民が平等な社会的、政治的権利」をもつとあるのに>

イスラエル国会は19日、「イスラエルではユダヤ人だけが自決権を持つ」ことを定めた「国民国家法」を可決した。全人口の2割近くを占めるアラブ系住民は「人種差別、アパルトヘイト(人種隔離政策)を合法化するもの」と猛反発している。

新法では、アラビア語が公用語から「特別な地位」に格下げされたほか、パレスチナ自治政府が将来の首都と主張する東エルサレムをも含む「統一エルサレム」がイスラエルの首都と宣言。またイスラエルは「ユダヤ人の歴史的な国土」だと明記した。

ユダヤ人に「唯一の民族自決権」があると定めたこの法律を、反対派は人種差別的だと猛反発し、イスラエルが「アパルトヘイト(人種隔離)国家」になりつつある証拠だと糾弾している。

国会での審議は約8時間に及び、最終的に賛成62、反対55の賛成多数で可決した。イスラエルでは4月にトランプ米大統領も出席して、建国70周年の祝賀行事が開催されたばかり。一方で、パレスチナのガザ地区ではパレスチナ人による抗議行動が続き、イスラエル軍の制圧で死者が出ているさなかの法案可決だった。

権利を否定されたアラブ系住民

国民国家法は象徴的な意味合いが強いが、全人口の約2割を占める180万人のアラブ系住民にとっては大きな痛手だ。1948年のイスラエル建国にあたって、約75万人のパレスチナ人が国外へ逃れたり住居を追われたりしたが、その後も国内にはアラブ系が少数派として暮らしている。こうしたアラブ系イスラエル人は法律上は平等の扱いを得ているものの、活動家によればアラブ系はあくまで「2級市民」で、雇用、教育、医療、住宅取得などあらゆる面で差別を受けているという。

法案は国会採決の最終段階で、レウベン・リブリン大統領やアビハイ・マンデルブリト司法長官ら反対派からの批判を受け、いくつかの条項を変更した。

地元紙「タイムズ・オブ・イスラエル」によると、この法律は憲法と同等の位置付けをされる「基本法」で、他の裁判の判例の基準となり、通常の法律よりも撤廃するのが難しい。

当初の法案では、ユダヤ人だけが住むことができるコミュニティを明文化し、関連の判例がない場合にはユダヤ教の儀式規則が他の法律よりも優先されることなどが盛り込まれていた。こうした条項は変更されたが、可決した新法でも「ユダヤ人入植の拡大」について、イスラエル政府が「奨励して促進する国家的価値」と明確に支持している。

アラブ系議員のアフマド・ティビは、同法が「民主主義の死」を意味し、「衝撃と悲しみ」をもって受け止めたと語っている。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

トランプ氏、シカゴでの不法移民摘発計画を再検討 情

ワールド

トランプ次期米大統領、就任式前日にワシントンで大規

ワールド

TikTok、米でサービス再開 トランプ氏は禁止法

ビジネス

トランプ氏、就任早々に暗号資産規制緩和の大統領令発
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプ新政権ガイド
特集:トランプ新政権ガイド
2025年1月21日号(1/15発売)

1月20日の就任式を目前に「爆弾」を連続投下。トランプ新政権の外交・内政と日本経済への影響は?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    失礼すぎる!「1人ディズニー」を楽しむ男性に、女性客が「気味が悪い」...男性の反撃に「完璧な対処」の声
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    感染症に強い食事法とは?...食物繊維と腸の関係が明らかに【最新研究】
  • 4
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」のはどれ…
  • 5
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼い…
  • 6
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べて…
  • 7
    女性クリエイター「1日に100人と寝る」チャレンジが…
  • 8
    注目を集めた「ロサンゼルス山火事」映像...空に広が…
  • 9
    本当に残念...『イカゲーム』シーズン2に「出てこな…
  • 10
    メーガン妃とヘンリー王子の「山火事見物」に大ブー…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 3
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼いでいるプロゲーマーが語る「eスポーツのリアル」
  • 4
    メーガン妃のNetflix新番組「ウィズ・ラブ、メーガン…
  • 5
    轟音に次ぐ轟音...ロシア国内の化学工場を夜間に襲う…
  • 6
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べて…
  • 7
    ドラマ「海に眠るダイヤモンド」で再注目...軍艦島の…
  • 8
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」のはどれ…
  • 9
    「搭乗券を見せてください」飛行機に侵入した「まさ…
  • 10
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    大腸がんの原因になる食品とは?...がん治療に革命をもたらす可能性も【最新研究】
  • 3
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 4
    夜空を切り裂いた「爆発の閃光」...「ロシア北方艦隊…
  • 5
    インスタント食品が招く「静かな健康危機」...研究が…
  • 6
    TBS日曜劇場が描かなかった坑夫生活...東京ドーム1.3…
  • 7
    「涙止まらん...」トリミングの結果、何の動物か分か…
  • 8
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 9
    「戦死証明書」を渡され...ロシアで戦死した北朝鮮兵…
  • 10
    「腹の底から笑った!」ママの「アダルト」なクリス…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中