米朝首脳会談で戦争のリスクは高まった
「最大限の圧力」再び?
このシナリオの別バージョンとしては、約束の中身が曖昧だったために、Aが実行すべき事柄について双方の解釈が異なり、平和をもたらすはずの合意が対立を激化させ、ついには軍事衝突を招く、というのもある。
あるいは、Aが安全を求め、Bがその求めに応じた場合。安全を保証すればAは安心して交渉に応じるだろうとBは考えたのだが、Bが軍事攻撃をしてこないと見切ったAはますます図に乗ってBを脅し、譲歩を引き出そうとするようになる。Bの思惑とは逆にますます「厄介な存在」になってしまったわけだ。
最初の2つのシナリオはまさにトランプが今やっていることだ。最後のシナリオは、レーガン、クリントン、それにブッシュ(息子)政権の北朝鮮政策と概ね重なる。アメリカが甘かったせいで、北朝鮮は大規模な飢饉に耐え、世襲による2度の政権交代を乗り切り、核兵器と大陸間弾道ミサイル(ICBM)の開発に成功した。
対米交渉で自信をつけた北朝鮮はより大胆になり、侮れない軍事力を保持するようになった。今後、戦争が起きた場合、以前とはケタ違いに壊滅的な被害がもたらされることになる。
北朝鮮には核廃棄をやる気がないと分かれば、トランプ政権はずるずる時間稼ぎをさせず、早い段階で「最大限の圧力」路線に戻る考えを明らかにしている。「破綻が避けられない場合、(過去の政権と違って)早く対応に乗り出し、制裁と国際的孤立で北朝鮮を締め上げる最大限の圧力キャンペーンを再開する」と、マイク・ポンペオ米国務長官の顧問はニューヨーク・タイムズに語った。
タフな交渉が必要だった
ポンペオが予想するように、非核化は非現実的な目標であり、米朝合意は破綻するかもしれない。そうなればポンペオはトランプに2017年の圧力と威嚇戦術に戻るよう助言するだろう。ただし、2017年と違い、今度は対話という戦争回避のための選択肢はもうない。
こうした状況になったのは不幸でもあり、急ぎ過ぎたツケでもある。2017年の圧力外交は、それなりに理にかなっていた。トランプ政権は圧力を強め、無責任な行動を続ければ手痛い代償を払うことになると、北朝鮮にようやく思い知らせることができた。これは基本的には悪くない、効果の期待できるアプローチである。ただし、それによって北朝鮮を対話の場に引き出し、タフな交渉を行い、強制力のある約束を取り付けられれば、の話だ。
トランプ政権は前半はまずまずよくやったのに、後半で失敗した。手ぬるい交渉による合意が踏みにじられたら、あとはもう武力行使という選択肢しか残らなくなる。
*筆者は、テキサス大学クレメンツ歴史・戦略・国政術研究所准所長。ブッシュ政権とオバマ政権下で国家安全保障会議スタッフを務めた。
This article first appeared on the Atlantic Council site.
Paul D. Miller is a professor in the practice of international affairs at Georgetown University's School of Foreign Service, where is serves as the co-chair of the Global Politics and Security concentration. He is also a senior fellow in the Scowcroft Center for Strategy and Security at the Atlantic Council. He is the author of American Power and Liberal Order.
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