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北朝鮮金正恩の「美少女調達」システムに北朝鮮国民が怒り
夫人の李雪主とともにモランボン楽団のメンバーを激励する金正恩(14年5月) KCNA-REUTERS
<金正恩の叔父、張成沢の粛清をきっかけに、政府に選ばれた少女たちの一部が権力者の性の玩具にされていることを北朝鮮国民は知ってしまった>
北朝鮮国営の朝鮮中央通信は30日、金正恩党委員長が中国との国境に面した平安北道(ピョンアンブクト)の薪島郡(シンドグン)を視察したと伝えた。同郡には、2011年に「経済地帯(特区)」に指定された鴨緑江(アムロッカン)河口の中州・黄金坪(ファングムピョン)も含まれる。黄金坪は中国との共同開発計画があるが、主導していた張成沢(チャン・ソンテク)元党行政部長が処刑されて以降、中断している。
張成沢氏の処刑は、北朝鮮の政治経済に様々な影響を与えた。多くの人々が「一味」と見られて粛清され、その中には北朝鮮きっての「イケメン」と言われた元俳優や、同氏と愛人関係にあった元スター女優のキム・ヘギョンもいた。そうして消し去られた人の数は1万人とも言われ、北朝鮮社会が負った人材面でのダメージは小さくなかったはずだ。
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しかしそれ以上に深刻なのが、北朝鮮国民の胸の内に芽生えた疑いと怒りだ。韓国に亡命した太永浩(テ・ヨンホ)元駐英北朝鮮公使が近著『3階書記室の暗号 太永浩の証言』(原題)で明かしているところによれば、北朝鮮国民は張成沢氏の愛人関係が明るみに出るに従い、権力層の腐敗堕落ぶりを知ることになった。日本では、故金正日総書記が愛した「喜び組」の存在はよく知られた話だが、北朝鮮の庶民は、そういったことをまったく知らない。
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実は、朝鮮労働党の中枢機関である組織指導部には、「権力層に仕える女性」を選抜、管理する特別なセクションがある。その名も「5課」。中央から道・郡・市などの末端にいたるまで組織網を張り巡らせ、14~16歳の美少女を選抜し、各種の専門家に養成するのだ。選抜された女性たちは、「5課対象」「5課処女」などと呼ばれる。朝鮮語で「処女」は若い女性や未婚女性を指す言葉で、日本語の「乙女」のニュアンスに近い。
5課の存在は、以前から北朝鮮国民の間で広く知られていた。太永浩氏によれば、北朝鮮の庶民は従来、娘がこのような対象に選抜されることを喜んでいたという。名誉でもあるし、選抜された少女の家庭には様々な恩恵が与えられるからだ。
ところが張成沢氏の粛清をきっかけに、5課に選ばれた少女たちの一部が権力者の性の玩具にされていることを、北朝鮮国民は知ってしまったのだ。
太永浩氏は前述した著書の中で、次のように言っている。
「北朝鮮国民は張成沢の不正と醜聞を通じ、腐敗堕落した白頭の血統の実像を目撃した。金氏の家門は共産主義とプロレタリア独裁の皮をかぶり、あってはならない奴隷社会を建設した。私は張成沢粛清が、今後、金正恩政権のアキレス腱になると見ている」
[筆者]
高英起(デイリーNKジャパン編集長/ジャーナリスト)
北朝鮮情報専門サイト「デイリーNKジャパン」編集長。関西大学経済学部卒業。98年から99年まで中国吉林省延辺大学に留学し、北朝鮮難民「脱北者」の現状や、北朝鮮内部情報を発信するが、北朝鮮当局の逆鱗に触れ、二度の指名手配を受ける。雑誌、週刊誌への執筆、テレビやラジオのコメンテーターも務める。主な著作に『コチェビよ、脱北の河を渡れ―中朝国境滞在記―』(新潮社)、『金正恩 核を持つお坊ちゃまくん、その素顔』(宝島社)、『北朝鮮ポップスの世界』(共著、花伝社)など。近著に『脱北者が明かす北朝鮮』(宝島社)。