中国はなぜ金正恩訪中を速報で伝えたのか?──米中間をうまく泳ぐ金正恩
北朝鮮・金正恩氏が3度目の訪中(写真は6月19日、北京。金が乗っているとみられる車)Thomas Peter-REUTERS
これまでは北朝鮮の指導者が帰国した後に訪中を報道するのが中国の慣例だ。なぜ今回は金正恩の入国と同時に速報で伝えたのか?元中国政府高官を取材し、中国の影響力が低下することを懸念していることが分かった。
中国政府、金正恩訪中を速報で
北朝鮮の金正恩委員長の飛行機が北京空港に到着してまもなく、中国政府の通信社である新華社の電子版「新華網」がその事実を短文で伝えた。
内容は「6月19日から20日にかけて、朝鮮労働党委員長で、朝鮮民主主義人民共和国国務委員会委員長金正恩は中国訪問を行なう」と書かれているだけだった。
それでもこれまで、北朝鮮の指導者が訪中した時には、指導者が帰国の途につき、北朝鮮の領土領空に入ったのを確認してからでないと公開しないという原則を破ったのは注目に値する。
それも報道は19日10時16分。まだ北京入りしたばかりだ。いったい何が起きたというのだろうか?
金正恩はシンガポールに向かうのに中国の専用機を使わせてもらいながら、そのお礼に行っていない。本来ならシンガポールからの帰路に北京の上空を通るのだから、北京に立ち寄って習近平国家主席にお礼を言うのが本筋だろう。だから、いずれ行くだろうことは、推測はしていた。まさか習近平が訪朝するまで謝辞を言わないということはあるまい。それはあまりに非礼だ。習近平訪朝前に金正恩は訪中しなければならない。したがって金正恩が三度目の訪中をしたこと自体には驚かないが、そのことを中国政府が速報で伝えたことには非常に驚いた。
よほどの事情がない限り、あり得ないことだ。
中国政府元高官を取材
そこですぐに元中国政府高官と連絡し、取材をした。
以下、Qは筆者、Aは元中国政府高官である。
Q:いったい、どうしたというのですか?金正恩が訪中したようですが、なぜすぐに報道してしまったのですか?
A:そうですね、たしかに異常です。ただ、金正恩はシンガポールでの米朝首脳会談のあとに、すぐさまその足で北京を訪問して習近平にお礼を言うべきところ、「なぜそうしないのか」という疑問に対する回答でしょう。彼は中国の飛行機使用のお礼と、トランプと会って何を話したかという報告を習近平にしなければなりませんから。
Q:それは金正恩が訪中した理由でしょ?それは私も分かっています。分からないのは、なぜ慣例を破って、入国と同時に金正恩訪中を中国政府が公開してしまったのかということです。
A:なかなか答えにくい質問ですから、つい遠まわしに......。では、言いましょう。中国は正にその慣例を破ってでも、一刻も早く金正恩訪中を知らせたかったのです。