金正恩、そしてトランプもシンガポール到着 厳戒態勢で市民生活に影響も
トランプ大統領側の取材はホワイトハウスが大統領同行記者団を中心にある程度の自由な取材を確保するものと見られるが、西側世界の自由な報道陣への対応の仕方をほとんど知らず、未経験な北朝鮮側がどこまでメディアの取材に対応するのかが全く未知数で、集まった報道陣は対応に苦慮しているのが実情だ。
しかし、不法侵入容疑で逮捕されたKBS記者のように韓国メディアの報道合戦は過熱気味で、ゲリラ的取材や突発的取材も十分可能性があるだけに、報道陣とシンガポール治安当局による、北朝鮮側への取材をめぐる「攻防」「駆け引き」が激化されることも予想されている。
北朝鮮の宿泊費はシンガポールが負担
両首脳が会談するセントーサ島、さらに金委員長が滞在するセント・レジスホテルのあるタングリン周辺地域は10日朝から警察当局による警戒が厳重となっており、交通規制や立ち入り禁止などシンガポールの市民生活や観光客にも影響が出始めている。
リー・シェンロン首相は10日午後、会見で「歴史的な首脳会議がシンガポールで開催されるが、市民はその意味を理解し何ができるかを示すだろう」と述べ、市民生活に出る影響について国民の理解を求める一方で「この会議を成功させるためにシンガポールはできる限りのことを行う用意がある」として金委員長のシンガポール滞在中の経費をシンガポール政府が負担する意向を示した。
シンガポール治安当局は警察、軍隊をほぼ総動員して「歴史的会談の成功」を実現させるため最高度の警戒態勢を敷いている。要人警護にはトランプ大統領側は米のシークレットサービスがあたり、金委員長側は人民軍の精鋭からなる身辺警護隊があたる。通常の国際儀礼ではこうしたVIPの身辺警護者の武器持ち込みは原則として禁止だが、今回は両首脳の警護陣は暗黙の了解で小火器の携帯を認められるものとみられている。
そのそれぞれの警護陣の外側をシンガポール軍のグルカ兵が固める形で「水をも漏らさぬ」態勢で12日の首脳会談を迎えようとしている。
[執筆者]
大塚智彦(ジャーナリスト)
PanAsiaNews所属 1957年東京生まれ。国学院大学文学部史学科卒、米ジョージワシントン大学大学院宗教学科中退。1984年毎日新聞社入社、長野支局、東京外信部防衛庁担当などを経てジャカルタ支局長。2000年産経新聞社入社、シンガポール支局長、社会部防衛省担当などを歴任。2014年からPan Asia News所属のフリーランス記者として東南アジアをフィールドに取材活動を続ける。著書に「アジアの中の自衛隊」(東洋経済新報社)、「民主国家への道、ジャカルタ報道2000日」(小学館)など