米朝首脳会談:非核化の成否、3つのシナリオ
さらに深刻な可能性も考えられる。交渉の進展をアピールしたいがゆえに、またノーベル平和賞が欲しいために、トランプはやってはならない取引に手を出すかもしれない。例えば北朝鮮は核兵器10基を引き渡し、長距離ミサイル20基を破壊して、「これで全部だ」と言うかもしれない。そして北朝鮮の保有する兵器はそれよりはるかに多いと考える十分な根拠があるにもかかわらず、トランプはこの中途半端な非核化を「完全なる勝利」だと主張するかもしれないのだ。
「ロシアは2016年の米大統領選挙に干渉などしていない」とウラジーミル・プーチン大統領が言った時と同じように、トランプは北朝鮮の保有する兵器は情報機関の見立てより少ないという金の言葉を額面通りに受け取るかもしれない。そもそもトランプは情報機関のことを好いていない。
悪いシナリオは他にもある。例えば北朝鮮は、朝鮮半島に駐留する米軍すべてを撤退させた後でという条件付きで、2〜3年かけて非核化を進める提案をするかもれしれない。トランプは「同盟はアメリカにとって利益よりコストの方が大きい」という考えに凝り固まっているから、韓国との同盟関係に終止符を打ついいチャンスだと思って提案に飛びつくかもしれない。一度撤退に舵を切れば、方向転換は難しくなる。そうなれば、北朝鮮は非核化を進めるペースに関し相当な発言力を持つようになるだろう。
リビア式
可能性はまだある。例えば「首脳会談と同時または直後に、即時に核廃棄を行うことは可能だ(またはそうすべきだ)」との考え方をアメリカが押し通すというシナリオだ。これは北朝鮮はすべての核兵器を外国に移送するために空港に運び込み、早急にすべての弾道ミサイルを破壊すべきだとする、ジョン・ボルトン米大統領補佐官の言う「リビア方式」とも共通する考えだが、政治的にも技術的にも実現可能性は低い。北朝鮮が製造した核兵器と核物質の量を確定し検証するには年単位とは行かなくても何カ月もかかるだろう。
北朝鮮の主張を真に受ける者はいないし、そうすべきでもない。それを検証するのに必要な詳細な情報を入手し踏み込んだ調査をするには相当な時間がかかるだろうし、アメリカを納得させるにはさらに何年もかかるはずだ。
(翻訳:村井裕美)