マレーシア、マハティール政権が始動 アンワル元副首相に恩赦、ナジブ前首相は実質軟禁状態に
前首相の汚職体質へ切り込み
一方、選挙での敗北を受けて「国民戦線(BN)」の指導者の座と中核政党である「統一マレー国民組織(UMNO)」の総裁を辞任したナジブ前首相は、クアラルンプール市内の自宅に留まっている。
5月12日朝、ナジブ元首相はフェイスブックに「家族と短い休暇をとる」と投稿。地元マスコミが同日午前にインドネシアに向かう航空機にナジブ氏とロスマ夫人の名前があると報じた。これを受けてマハティール首相は素早く反応、入国管理局にナジブ夫妻の出国禁止措置を命じた。これを受けてナジブ氏はツイッター上で「決定を尊重し国内にとどまる」と出国を断念したことを明らかにした。
マハティール首相の判断は、今後本格化する2008年設立の政府系ファンド「ワン・マレーシア・デベロップ・バンク(1MDB)」の不正資金流用疑惑の捜査に関連して、一部資金が振り込まれたとみられるナジブ首相の海外逃亡を防ぐためという。
以後、ナジブ氏の自宅周辺は警備が強化され、事実上の「自宅軟禁」を余儀なくされているという。
中国寄り政策見直し、自国利益優先に
マハティール首相は首相就任直後から外国企業の大型プロジェクト、投資に関して見直す方針を繰り返し明言している。中国の「一帯一路」政策に沿う形でナジブ前政権が決定した大型案件が複数進行しているが、これを随時見直す方向だという。「各事業、プロジェクトが私たちマレーシアの利益になるかどうかを判断するための見直しである」としている。この方針はこれまでのナジブ政権による中国への高い依存、偏重を改める方針であり、中国側から不満がでることが予想されている。
すでに1MDBが巨額の債務を抱えた結果、1MDB傘下の発電所などが中国企業へ2015年に売却されているほか、鉄道、港湾、工業施設など中国関連プロジェクトは30件以上とされている。
マハティール首相が強調するのは「中国ではなくマレーシアの利益優先」で、外国からの投資には「資本、技術、雇用」の面でマレーシアに貢献するものでなければならないとの信念に基づくものだ。
総選挙の結果による政権交代は長年マレーシアの政権を担ってきた国民戦線側には初めての試練となり、ナジブ前首相は首相在任中の不正や中国寄りの政策決定、野党陣営への不当な侵害行為などで今後厳しい司法と世論の追求にさらされそうだ。
一方、政権交代して政権を握った「希望連盟」側は、国民の期待と希望を託された重みを実感しながらも「変化」と「金権汚職体質からの脱却」という公約実現、さらに中国一辺倒の見直しなどに向けた政権の舵取りが求められている。
[執筆者]
大塚智彦(ジャーナリスト)
PanAsiaNews所属 1957年東京生まれ。国学院大学文学部史学科卒、米ジョージワシントン大学大学院宗教学科中退。1984年毎日新聞社入社、長野支局、東京外信部防衛庁担当などを経てジャカルタ支局長。2000年産経新聞社入社、シンガポール支局長、社会部防衛省担当などを歴任。2014年からPan Asia News所属のフリーランス記者として東南アジアをフィールドに取材活動を続ける。著書に「アジアの中の自衛隊」(東洋経済新報社)、「民主国家への道、ジャカルタ報道2000日」(小学館)など
2025年1月28日号(1月21日発売)は「トランプの頭の中」特集。いよいよ始まる第2次トランプ政権。再任大統領の行動原理と世界観を知る
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