運動期間中20人以上が殺された! 立候補は命がけというフィリピンの選挙
殺し屋15人を警察が逮捕
5月5日、ミンダナオ島西部の都市サンボアガで武装した集団を警察の特殊部隊が陸軍の支援を受けて摘発。銃撃戦の末15人を逮捕した。その後の調べで彼らは周辺の町ソミノットやオロキエタで最近発生している一連の銃撃事件に関与した疑いのあるプロの殺し屋集団であることが判明したという。逮捕と同時に15人が所持していた自動拳銃などの武器も押収された。
15人の中には元市長や元バンガライ議長なども含まれており、バンガライ選挙に絡んだ政敵や立候補関係者を狙った銃撃事件、殺害事件にも関与していた容疑で取り調べを受けているという。
日本大使館も在留邦人に注意喚起
フィリピンではバンガライ選挙で殺人事件が起きるのは「恒例」ともいわれ、前回2013年にも候補者やその関係者の射殺が相次いだ。
このためフィリピン政府は実質的な選挙期間として4月14日から投票の完全集計が終了する予定の5月21日までの選挙期間中、一般市民が銃火器を携行することを禁止する措置を講じている。しかし、実態は銃火器の携行、使用が野放し状態であることは、頻発する銃撃、射殺事件が証明している。
国政選挙、地方選挙と同様、バンガライ選挙でも地方の実力者が養っている「私兵組織(PAG=Personal Army Gang)」が、対立候補や政敵、あるいは報道陣に向けて「沈黙を強要する銃弾」を発射するケースが多いという。そしてPGAによる犯行に関しては往々にして実行犯あるいはPGAのスポンサーまで司法の裁きを受けさせることが困難なのが実情という。その理由として、司法関係者の生命すら脅かす存在だからといわれている。
在フィリピン日本大使館は、こうした過去の経緯や今回の選挙でもすでに多数の死者が出ている事態を重視し、5月2日に在留邦人や渡航予定者に向けた「注意喚起」を出した。
「今後不測の事態の発生も懸念されることから、最新情報の入手に努め、安全確保に十分注意を払ってください」という趣旨の内容となっている。
「国民が参政権を漏れなく行使できるように」と、投票日の5月14日を大統領布告で特別休日にしたフィリピン。投票結果が判明するまで文字通り命がけで選挙戦を戦う立候補者たちの戦々恐々とした日々は続く。
[執筆者]
大塚智彦(ジャーナリスト)
PanAsiaNews所属 1957年東京生まれ。国学院大学文学部史学科卒、米ジョージワシントン大学大学院宗教学科中退。1984年毎日新聞社入社、長野支局、東京外信部防衛庁担当などを経てジャカルタ支局長。2000年産経新聞社入社、シンガポール支局長、社会部防衛省担当などを歴任。2014年からPan Asia News所属のフリーランス記者として東南アジアをフィールドに取材活動を続ける。著書に「アジアの中の自衛隊」(東洋経済新報社)、「民主国家への道、ジャカルタ報道2000日」(小学館)など
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