最新記事

韓国

対北朝鮮融和に一直線、韓国文政権の「検閲」が始まった

2018年4月21日(土)11時30分
ジェフリー・ファティグ(韓国在住ジャーナリスト)

USKIが運営してきた北朝鮮分析サイト「38ノース」は独立機関として活動を継続するが 38north.org

<批判派のメディアや学者に政治的圧力――異論を排除するのは韓国政府の悪しき伝統だ>

リベラル派とされる韓国の文在寅(ムン・ジェイン)大統領は、異論を封じようとしているのか。

韓国の政府系機関、対外経済政策研究院が米ジョンズ・ホプキンズ大学高等国際問題研究大学院米韓研究所(USKI)への資金提供の中止を決定。USKIは5月11日に閉鎖されることになった。決定の背景には、保守派として知られるUSKIのク・ジェフィ所長の解任要求があったと批判派は主張する。

これに先立って韓国の中央日報は、文政権が国内のシンクタンクに所属する対北朝鮮政策批判派に政治的圧力をかけていると報じた。「ブラックリスト」に載っていたデービッド・ストローブ元米国務省韓国担当課長は先日、世宗研究所(ソウル)の研究員の職を辞したという。

こうした主張は極めて信憑性が高い。北朝鮮は4月27日に予定される南北首脳会談、6月上旬までの開催が見込まれる米朝首脳会談に向けて友好姿勢を持続する見返りとして、自国への批判を制限するよう韓国に求めているに違いないからだ。

むしろ、文政権の抑圧的な行動に衝撃を受けることのほうが驚きだ。文政権は南北和平の機運を維持しようと必死。北朝鮮の金正恩(キム・ジョンウン)党委員長がピョンチャン(平昌)冬季五輪に参加する用意があると新年の演説で語って以来、韓国の態度は一変した。今や世論は戦争ではなく平和への路線転換が起きているとの楽観的見方が優勢になっている。

そもそも、韓国の政府は保守・革新を問わずメディアや学界の異論を抑え込もうとするのが常。だがこの事実を、「民主的」で「リベラル」な韓国をたたえる欧米メディアは忘れがちだ。実際、文以前にいわゆるリベラル政権を率いた金大中(キム・デジュン)と盧武鉉(ノ・ムヒョン)は国内メディアに厳しく圧力をかけ、報道の自由の観点から国際団体に批判された。

リベラルも例外にあらず

金大中は98年の大統領就任後、米NPOのジャーナリスト保護委員会の非難を浴びた。大統領選中に自身を「親共産主義者」と糾弾した記者や雑誌出版社を名誉毀損で告訴したためだ。

盧も、主要な保守系3紙の市場占有率の制限を狙った新聞法を施行(後に一部違憲との判決)。ネット利用に当たって実名登録を義務付けた際には、国境なき記者団が報告書「インターネットの敵」で韓国を監視対象に挙げた(同法は12年に違憲判決)。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

米中が24日会合、貿易摩擦緩和目指し=トランプ氏

ビジネス

米3月耐久財受注9.2%増、予想上回る 民間航空機

ワールド

トランプ氏、ロのキーウ攻撃を非難 「ウラジミール、

ビジネス

米関税措置、独経済にも重大リスク=独連銀総裁
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
2025年4月29日号(4/22発売)

タイ・ミャンマーでの大摘発を経て焦点はカンボジアへ。政府と癒着した犯罪の巣窟に日本人の影

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    健康寿命は延ばせる...認知症「14のリスク要因」とは?【最新研究】
  • 2
    日本の10代女子の多くが「子どもは欲しくない」と考えるのはなぜか
  • 3
    【クイズ】「地球の肺」と呼ばれる場所はどこ?
  • 4
    トランプ政権はナチスと類似?――「独裁者はまず大学…
  • 5
    トランプ政権の悪評が直撃、各国がアメリカへの渡航…
  • 6
    教皇死去を喜ぶトランプ派議員「神の手が悪を打ち負…
  • 7
    「地球外生命体の最強証拠」? 惑星K2-18bで発見「生…
  • 8
    謎に包まれた7世紀の古戦場...正確な場所を突き止め…
  • 9
    「スケールが違う」天の川にそっくりな銀河、宇宙初…
  • 10
    【クイズ】世界で最もヒットした「日本のアニメ映画…
  • 1
    「生はちみつ」と「純粋はちみつ」は何が違うのか?...「偽スーパーフード」に専門家が警鐘
  • 2
    しゃがんだ瞬間...「えっ全部見えてる?」ジムで遭遇した「透けレギンス」投稿にネット騒然
  • 3
    「スケールが違う」天の川にそっくりな銀河、宇宙初期に発見される
  • 4
    【クイズ】「地球の肺」と呼ばれる場所はどこ?
  • 5
    女性職員を毎日「ランチに誘う」...90歳の男性ボラン…
  • 6
    教皇死去を喜ぶトランプ派議員「神の手が悪を打ち負…
  • 7
    『職場の「困った人」をうまく動かす心理術』は必ず…
  • 8
    【クイズ】売上高が世界1位の「半導体ベンダー」はど…
  • 9
    自宅の天井から「謎の物体」が...「これは何?」と投…
  • 10
    「100歳まで食・酒を楽しもう」肝機能が復活! 脂肪…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった...糖尿病を予防し、がんと闘う効果にも期待が
  • 3
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 4
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 5
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 6
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 7
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 8
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 9
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
  • 10
    クレオパトラの墓をついに発見? 発掘調査を率いた…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中