動き出す放送法改正 安倍首相は改憲に向け「政治的公平」撤廃狙う?
ハード・ソフト分離
日本の地上波テレビ局は米国などとは違い、放送設備部門と番組制作部門が一体化しており「番組を作れば、必ず放送される状況にある」(関係者)。改革推進派はこの競争原理が働きにくい状況を問題視しており、放送設備などのハードとコンテンツ制作のソフトを分離することで、コンテンツに競争原理を導入したい考えだ。
「ネットフリックスなどネット動画がどんどん成長する中で、日本の放送局の伸びはわずかだ。日本の放送コンテンツ産業は成長余地が大きく、日本の強みとして海外にも売り込みたい」(政府関係者)。
これに対して 日本民間放送連盟の井上弘会長(TBSテレビ名誉会長)は15日の会見で「民間放送が普通のコンテンツ制作会社となってしまったら、字幕放送や手話放送、災害放送や有事の際の放送はできなくなるのではないか」と懸念を示している。
放送法4条撤廃
通信と放送の融合を進める際、規制をどちらにそろえるかも問題となる。安倍首相は2月6日の予算委員会で「ネットは自由な世界であり、その自由な世界に規制を持ち込むという考え方は全くない。であるならば、放送法をどうするかという問題意識を持っている」と述べ、放送法の規制緩和に積極的なスタンスを示した。
そこで焦点となるのが、官邸サイドが検討している放送法4条の撤廃だ。4条では放送内容の政治的公平や多角的視点を求めており、放送の信頼性を構成する1つの要素となっているとの見方が多い。
一方でネットにはこうした規制がなく、フェイク(偽)ニュースが生まれやすいという土壌がある。
野田聖子総務相は、22日の衆院総務委員会で4条について「撤廃した場合には公序良俗を害するような番組や事実に基づかない報道が増加する等の可能性が考えられる」と述べ、撤廃に慎重な姿勢を示した。
民放連の井上会長も15日の会見で「フェイクニュースへの対応が世界的に共通の社会問題になってきた昨今、バランスの取れた情報を無料で送り続ける放送の役割は、これまで以上に重要になっている」と語り、改革ありきの議論に疑問を呈した。
これに対して改革推進派は「4条があるから放送の信頼性が保たれていると言うが、新聞は4条がなくても信頼度は高い。信頼性は4条の有無で決まるものではなく、しっかりと取材をして書いているかどうかに尽きる」(政府関係者)と反論している。