最新記事

外交

米朝会談と日米「安倍トラ」関係の盲点

2018年3月24日(土)12時00分
辰巳由紀(米スティムソン・センター日本研究部長、キャノングローバル戦略研究所主任研究員)

国務省の士気はガタ落ち

さらに、トランプが金との会談に応じると発表した翌日、ホワイトハウスのサラ・サンダース大統領報道官を含め政権高官が「会談が実現するためには、北朝鮮が非核化に向けてより具体的な行動を取ることが必要だ」と発言。現在北朝鮮が提示している「ミサイル・核実験モラトリアム」だけでは不十分という認識を示した。このようなメッセージは、北朝鮮側に「会談に応じると述べた後、追加的に条件を付けたのはアメリカ側」と、会談をほごにする格好の口実を与えかねない。

また、最初から首脳会談をするリスクも小さくない。94年に細川護煕首相が訪米しビル・クリントン大統領と首脳会談に臨んだが、通商問題をめぐって合意できず、会談は物別れに終わった。会談後、細川はこれを「大人の関係」と呼んで、日米関係全体に悪影響が及ばないとアピールしたが、「細川は日米関係で失敗した」というイメージはその後も付いて回った。

首脳会談は、失敗が許されない会談と言っても過言ではない。だからこそ、通常2国間の会談は、事務レベルで内容を詰め、徐々に協議のレベルを引き上げ、閣僚級会談を経てようやく首脳会談というプロセスとなる。最終的に首脳会談に至るまでに、ほぼ全ての問題に決着をつけ、首脳会談が「成功した」というイメージを醸し出すことに当事国は腐心するのだ。今回、そのような事務方レベルでの協議を全て飛ばして一気に首脳会談を行うと決めたトランプは、自らを崖っぷちに立たせたも同然だ。

そして、会談に向けた準備をする上で本来であれば重要な役割を果たす国務省の体制が極めて手薄なのは大きな懸念材料だろう。駐韓米大使、北朝鮮特別代表のポストが空席の状態であるばかりでなく、13日にトランプはレックス・ティラーソン国務長官を解任。後任にマイク・ポンペオCIA長官を充てることをツイートで発表した。

ティラーソン解任が近いという噂は数カ月前からワシントンでは一定の周期で浮上しており、それ自体は驚く話ではない。しかし、わずか2カ月後に米朝首脳会談を控えるこの時期に国務長官を交代させるのは普通考えられない。

トランプが米朝首脳会談を成功させることを重視しているからこそ、これまでも路線対立が度々ささやかれてきたティラーソンから、自分の考えにより近いポンペオに交代させ、心機一転して首脳会談の準備に当たらせることにした、という見方もできないわけではない。

しかし、トランプ政権発足後、予算・人員ともに削減の一途をたどり全体として士気が下がっている現在の状態で、国務省が米朝首脳会談に向けてホワイトハウスをしっかりサポートできるのか疑問は残る。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

中国、公務員に10年ぶり大幅賃上げ 経済活性化策の

ビジネス

米、国内アンチモン採掘を許可 中国禁輸で調達体制構

ワールド

米政権、イスラエルへの80億ドル武器売却案を議会に

ワールド

焦点:深刻化する世界の飢餓、支援責任果たさぬ大国に
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ISSUES 2025
特集:ISSUES 2025
2024年12月31日/2025年1月 7日号(12/24発売)

トランプ2.0/中東&ウクライナ戦争/米経済/中国経済/AI......世界の論点とキーパーソン

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    青学大・原監督と予選落ち大学の選手たちが見せた奇跡...池井戸潤の『俺たちの箱根駅伝』を超える実話
  • 2
    ザポリージャ州の「ロシア軍司令部」にHIMARS攻撃...ミサイル直撃で建物が吹き飛ぶ瞬間映像
  • 3
    わが子の亡骸を17日間離さなかったシャチに新しい赤ちゃんが誕生
  • 4
    早稲田の卒業生はなぜ母校が「難関校」になることを…
  • 5
    「妄想がすごい!」 米セレブ、「テイラー・スウィフ…
  • 6
    韓国の捜査機関、ユン大統領の拘束執行を中止 警護庁…
  • 7
    真の敵は中国──帝政ロシアの過ちに学ばない愚かさ
  • 8
    地下鉄で火をつけられた女性を、焼け死ぬまで「誰も…
  • 9
    ウクライナ水上ドローンが「史上初」の攻撃成功...海…
  • 10
    北朝鮮を頼って韓国を怒らせたプーチンの大誤算
  • 1
    地下鉄で火をつけられた女性を、焼け死ぬまで「誰も助けず携帯で撮影した」事件がえぐり出すNYの恥部
  • 2
    真の敵は中国──帝政ロシアの過ちに学ばない愚かさ
  • 3
    JO1やINIが所属するLAPONEの崔社長「日本の音楽の強みは『個性』。そこを僕らも大切にしたい」
  • 4
    イースター島で見つかった1億6500万年前の「タイムカ…
  • 5
    カヤックの下にうごめく「謎の影」...釣り人を恐怖に…
  • 6
    「腹の底から笑った!」ママの「アダルト」なクリス…
  • 7
    「弾薬庫で火災と爆発」ロシア最大の軍事演習場を複…
  • 8
    キャサリン妃の「結婚前からの大変身」が話題に...「…
  • 9
    早稲田の卒業生はなぜ母校が「難関校」になることを…
  • 10
    スターバックスのレシートが示す現実...たった3年で…
  • 1
    大腸がんの原因になる食品とは?...がん治療に革命をもたらす可能性も【最新研究】
  • 2
    夜空を切り裂いた「爆発の閃光」...「ロシア北方艦隊」の基地で発生した大爆発を捉えた映像にSNSでは憶測も
  • 3
    インスタント食品が招く「静かな健康危機」...研究が明らかにした現実
  • 4
    ロシア兵「そそくさとシリア脱出」...ロシアのプレゼ…
  • 5
    TBS日曜劇場が描かなかった坑夫生活...東京ドーム1.3…
  • 6
    ロシア軍は戦死した北朝鮮兵の「顔を焼いている」──…
  • 7
    半年で約486万人の旅人「遊女の数は1000人」にも達し…
  • 8
    「腹の底から笑った!」ママの「アダルト」なクリス…
  • 9
    「炭水化物の制限」は健康に問題ないですか?...和田…
  • 10
    ミサイル落下、大爆発の衝撃シーン...ロシアの自走式…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中