最新記事

ロシア大統領選

【ロシア大統領選】プーチン独裁の暴力性を見過ごすな

2018年3月16日(金)12時30分
ダニエル・ベアー

そして大きいのがメディアの役割だ。プーチンが権力の座に就いた当初にまず攻撃したオリガルヒ(新興財閥)の一部が、テレビ局をはじめとするメディア機関のトップたちだった。

以降、プーチンは放送波をほぼ完全に掌握している。国営テレビ局「ロシア1」は先ごろ、大統領選の候補者(最初から落選が決まっている「小道具」たち)による討論会を開催した。そこではウラジーミル・ジリノフスキー(長年プーチンが小道具として使っているナショナリストの扇動家)が美女候補のクセニア・サプチャクを侮辱し、サプチャクが怒って水の入ったグラスを投げつけるとジリノフスキーが「売女」と罵り返した。

こうした醜い演出のおかげで、討論会を欠席したプーチンのイメージがぐんとアップした。

ニセ物の選挙の問題の一つは、投票率がなかなか上げらないことだ。投票率が上がらなければ、正当な選挙と認められない。従ってロシア政府は今、著名人を起用したネット動画に大金を投じ、投票を呼びかけている。

その動画の中の1本は、プーチンの愛国主義的で伝統主義的なメッセージを大々的に取り上げている。投票をしなければ、「黒人」ロシア人の軍隊や同性愛者の家族をもたなければならいような国になると、あからさまに排外的な宣伝もある。

先がないのになぜ辞めないのか

プーチンが演出する見せかけの選挙の裏では、違法な動員が行われる。ロシア各地の工場労働者や地方自治体の職員が報酬を受け取って政治集会に出席したり、バスで投票所に連れていかれたり。投票率や得票数を伸ばすには、入念に計画されたロジスティクス(それに多くの腐敗)が必要なのだ。

いったい何のために、これだけの労力を費やすのか。プーチンは、1000回生まれ変わっても贅沢に暮らせるほどの財産を国から盗んできた。だが彼の人生は一度きりだ。もしも彼が本当に賢い天才ならば、適当なところで行方をくらまし、残りの人生を人知れず快適に過ごすことを選ぶはずだ。

人口は減少し、経済は低迷。戦略的な難題もあり、ロシアの将来は暗い。必然の結果が訪れる前に逃げたほうがいい。自分が有利な立場にあるうちに辞めた方がいい。だが独裁者にはそれができない。たとえ本人が望んでも、自らが君臨するマフィアのような構造を見捨てることはできないし、おそらくプーチンは望まないだろう。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米バークシャー、24年は3年連続最高益 日本の商社

ワールド

トランプ氏、中国による戦略分野への投資を制限 CF

ワールド

ウクライナ資源譲渡、合意近い 援助分回収する=トラ

ビジネス

ECB預金金利、夏までに2%へ引き下げも=仏中銀総
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ウクライナが停戦する日
特集:ウクライナが停戦する日
2025年2月25日号(2/18発売)

ゼレンスキーとプーチンがトランプの圧力で妥協? 20万人以上が死んだ戦争が終わる条件は

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン化」の理由
  • 3
    細胞を若返らせるカギが発見される...日本の研究チームが発表【最新研究】
  • 4
    メーガン妃が「アイデンティティ危機」に直面...「必…
  • 5
    深夜の防犯カメラ写真に「幽霊の姿が!」と話題に...…
  • 6
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 7
    1888年の未解決事件、ついに終焉か? 「切り裂きジャ…
  • 8
    障がいで歩けない子犬が、補助具で「初めて歩く」映…
  • 9
    トランプが「マスクに主役を奪われて怒っている」...…
  • 10
    ソ連時代の「勝利の旗」掲げるロシア軍車両を次々爆…
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される【最新研究】
  • 3
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン化」の理由
  • 4
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 5
    動かないのに筋力アップ? 88歳医大名誉教授が語る「…
  • 6
    朝1杯の「バターコーヒー」が老化を遅らせる...細胞…
  • 7
    7年後に迫る「小惑星の衝突を防げ」、中国が「地球防…
  • 8
    ビタミンB1で疲労回復!疲れに効く3つの野菜&腸活に…
  • 9
    「トランプ相互関税」の範囲が広すぎて滅茶苦茶...VA…
  • 10
    飛行中の航空機が空中で発火、大炎上...米テキサスの…
  • 1
    週刊文春は「訂正」を出す必要などなかった
  • 2
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 3
    【一発アウト】税務署が「怪しい!」と思う通帳とは?
  • 4
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」…
  • 5
    「健康寿命」を延ばすのは「少食」と「皮下脂肪」だ…
  • 6
    1日大さじ1杯でOK!「細胞の老化」や「体重の増加」…
  • 7
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 8
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 9
    世界初の研究:コーヒーは「飲む時間帯」で健康効果…
  • 10
    「DeepSeekショック」の株価大暴落が回避された理由
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中