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環境ロンドンの汚れた霧が弱者をむしばむ
ロンドン名物の霧が胎児や高齢者の健康を脅かしているとの研究報告が Dan Kitwood/GETTY IMAGES
<排ガスなどによるロンドンの大気汚染が胎児と高齢者を直撃する>
大気汚染は健康に悪いという報告が相次いでいる。最近も新たに2つの研究により、車の排ガスなどによる大気汚染が最も弱い立場の人々の健康に悪影響を及ぼしている実態が明らかになった。胎児と高齢者だ。
ロンドン大学インペリアル・カレッジの統計疫学者レイチェル・スミスらは、女性が妊娠中に汚染された空気を吸うと低体重児が生まれるリスクが高まることを突き止めた。
スミスらは大ロンドン圏の出生登録データから06~10年に生まれた子供約54万人を抽出。排ガスなどに含まれる二酸化窒素(NO2)、窒素酸化物(NOx)、有害な微小粒子状物質PM2.5といった汚染物質の平均量と妊婦の居住地のデータを付き合わせた。その結果、母体が大気汚染物質にさらされた場合、出生時低体重は2~6%、胎児発育不全は1~3%増加していた。
スミスによれば、この結果は「ロンドンの道路交通による大気汚染が胎児の発育に悪影響を及ぼしている可能性を示唆している」。PM2.5による大気汚染を10%減らせば、低体重児の出生数を3%減らせるという。
同じくロンドンで実施された別の研究では、特に高齢者の場合に大気汚染が運動のメリットを帳消しにしかねないことが分かった。この研究は60歳以上の健康な人、安定期にある慢性閉塞性肺疾患(COPD)患者と心臓病患者の計119人を対象に実施。
被験者は2つのグループに分かれ、一方はロンドン市内の静かな公園を、もう一方は交通量の多いオックスフォード通りを2時間ウオーキングした。
その結果、公園組は1時間以内に肺活量が向上し、血流が増加、血圧は低下した。効果が24時間以上持続したケースもみられた。動脈壁硬化についても、健康な人とCOPD患者で約24%、心臓病患者では20%近く減少した。
一方、オックスフォード通り組では、散歩による動脈壁硬化の改善率は健康な人で4.6%、COPD患者で16%、心臓病患者で8.6%にとどまった。
気掛かりな結果だ。14年時点で世界の総人口の92%がWHOの空気質ガイドラインの基準に満たない環境で生活していた。霧の都ロンドンだけでなく、人類全体の未来にもスモッグが重く垂れ込めているようだ。
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[2018年1月16日号掲載]