米ロの新たな軍拡競争 オバマ政権の核兵器近代化が引き金に
核兵器強化は効果的な抑止力となり、戦争リスクを低下させると主張する人たちもいる。
核兵器を管理する米エネルギー省の高官を1月まで務めていたチェリー・マリー氏は、新STARTによる核兵器保有量の削減によって、米国政府は保有兵器の性能を向上せざるを得ないと述べた。
米国は冷戦時代、相当数のミサイルを保有していたため、たとえ不良品があったとしても軍はそれをただ廃棄することができた。しかし新STARTが1550発に核弾頭保有数を制限していることで、その1発1発が重要になったとマリー氏は言う。
「数が減らされたことで、われわれは確実にそれらを機能させなくてはならなくなった。また、機能すると敵に信じさせることも大事だ」
トランプ大統領の近代化プログラムへの見解についての質問に対し、米国家安全保障会議の報道官は、「現代的かつ強固で、順応力と回復力があり、いつでも使用可能で、21世紀の脅威を抑止し、同盟国を安心させる目的にかなう」核戦力を生み出すことが大統領の目標だと答えている。
最も高額な爆弾
保有数の減少は、技術的向上を覆い隠してもいる。
兵器の数ではなく殺傷力を競う軍拡競争が繰り広げられていると、米ミドルベリー国際大学院モントレー校、ジェームズ・マーティン不拡散研究センターのウィリアム・ポッター所長は指摘。「技術進歩が、軍縮を上回っている状況だ」と語る。
古い兵器がより危険な新兵器に生まれ変わった例として、米国の主力水素爆弾がある。米空軍は1960年代半ばから、重爆撃機に核爆弾「B61」を装備している。最近まで、B61は航空機から投下され、重力に従って標的にただ落下する旧式の爆弾だった。
空軍は現在、それを制御可能なスマート爆弾に進化させた。新型には調節可能なテールフィンが付いており、爆撃機乗員が爆弾を標的に向かわせる誘導システムを備えている。最新型はすでに、爆発の威力を調節できる特殊な「調節能力」を備えている。
広島に投下された原子力爆弾と比べ、ほんのわずかの威力しかない0.3キロトンから、同爆弾の23倍で都市を壊滅する破壊力を有する340キロトンまで、爆発の威力を調整することが可能だ。同様の機能は、新型巡航ミサイルでも計画されている。
新型のB61は史上最も高額な爆弾だ。1発当たり、2080万ドル(約23億円)で、同じ重さの24金よりも約3割高い。計480発製造する計画で、推定価格は100億ドルとみられている。
米国議会はまた、新兵器「核搭載長距離巡航ミサイル」の当初予算18億ドルを承認した。総費用170億ドルを見込む同ミサイルは、爆撃機から発射される。ステルス爆撃機が標的の真上まで飛んで投下するB61と異なり、この巡航ミサイルは、敵空軍の防衛圏のはるか外を飛ぶ爆撃機から敵地の奥深くに向けて発射することが可能だ。