最新記事

中国

韓国を操る中国――「三不一限」の要求

2017年11月30日(木)13時30分
遠藤誉(東京福祉大学国際交流センター長)

国内的にも、「中華人民共和国は中国共産党軍が日本軍と勇猛果敢に戦って日本を敗北させたからこそ誕生した国家だ」という、全く偽りの「抗日神話」をでっちあげて中国共産党一党支配の求心力を何とか保とうと必死なので、その日本と軍事的あるいは安全保障上、連携するなどということは絶対にあってはならない。国家の根幹が揺らぐことになる。

そこで韓国を操って日本から離れさせ、米中の距離を縮めようと中国は狙っている。

米中蜜月は北朝鮮にとっては恐怖

北朝鮮にとって、最大の敵はアメリカだ。「米軍が南朝鮮(韓国)にいて北朝鮮を侵略しようとしているからこそ、我が国は自国を守るために核・ミサイルの開発をするのだ」というのが北朝鮮の大義名分である。北朝鮮にとって唯一の軍事同盟を結んでいる中国が、こともあろうに、そのアメリカと蜜月になったのでは、北朝鮮は身動きが取れない。加えて、中国では党大会があったため、その間に北朝鮮が暴発すれば中国が持つ3枚のカード(中朝軍事同盟の破棄、断油、中朝国境線の完全封鎖)を切るぞと威嚇してきた。だから北朝鮮は大人しくしていた。

しかし中国には、米中蜜月を演じれば演じるほど、何としても日本を「日米韓3か国協力体制」から引き離さなければならない「抗日神話」というお国の事情がある。韓国を懐柔し、韓国を属国のごとく扱っているのは、その計算があるからだ。

一方、米中で「新型大国関係」を築き、国際社会に中国の「偉大さ」をアピールするためには、米中は「しばらくは」蜜月でいなければならない。それを可能にするために「日米中韓露」5ヵ国の中で、最も弱い立場にある韓国を操るというのが、目下の中国の戦略だ。THAADの韓国配備に関しても、アメリカには直接不満をぶつけず、韓国を虐めることによって配備を妨げようとしている。

文在寅は北に対して融和策を唱えて大統領に当選している。対話重視という点で中国と一致する。その点においては都合がいいだろうが、しかし韓国民にだって尊厳があるだろう。中国は他国民の尊厳にまでは踏み込めないはずで、度を越せば失敗することも考えるべきではないだろうか。

endo-progile.jpg[執筆者]遠藤 誉
1941年中国生まれ。中国革命戦を経験し1953年に日本帰国。東京福祉大学国際交流センター長、筑波大学名誉教授、理学博士。中国社会科学院社会科学研究所客員研究員・教授などを歴任。著書に『習近平vs.トランプ 世界を制するのは誰か』(飛鳥新社)『毛沢東 日本軍と共謀した男』(中文版も)『チャイナ・セブン <紅い皇帝>習近平』『チャイナ・ナイン 中国を動かす9人の男たち』『ネット大国中国 言論をめぐる攻防』など多数。

※当記事はYahoo!ニュース 個人からの転載です。

この筆者の記事一覧はこちら≫

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

トランプ氏、米軍制服組トップ解任 指導部の大規模刷

ワールド

アングル:性的少数者がおびえるドイツ議会選、極右台

ワールド

アングル:高評価なのに「仕事できない」と解雇、米D

ビジネス

米国株式市場=3指数大幅下落、さえない経済指標で売
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ウクライナが停戦する日
特集:ウクライナが停戦する日
2025年2月25日号(2/18発売)

ゼレンスキーとプーチンがトランプの圧力で妥協? 20万人以上が死んだ戦争が終わる条件は

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン化」の理由
  • 3
    メーガン妃が「アイデンティティ危機」に直面...「必死すぎる」「迷走中」
  • 4
    1888年の未解決事件、ついに終焉か? 「切り裂きジャ…
  • 5
    深夜の防犯カメラ写真に「幽霊の姿が!」と話題に...…
  • 6
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 7
    ソ連時代の「勝利の旗」掲げるロシア軍車両を次々爆…
  • 8
    私に「家」をくれたのは、この茶トラ猫でした
  • 9
    トランプが「マスクに主役を奪われて怒っている」...…
  • 10
    飛行中の航空機が空中で発火、大炎上...米テキサスの…
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される【最新研究】
  • 3
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン化」の理由
  • 4
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 5
    動かないのに筋力アップ? 88歳医大名誉教授が語る「…
  • 6
    朝1杯の「バターコーヒー」が老化を遅らせる...細胞…
  • 7
    7年後に迫る「小惑星の衝突を防げ」、中国が「地球防…
  • 8
    ビタミンB1で疲労回復!疲れに効く3つの野菜&腸活に…
  • 9
    「トランプ相互関税」の範囲が広すぎて滅茶苦茶...VA…
  • 10
    飛行中の航空機が空中で発火、大炎上...米テキサスの…
  • 1
    週刊文春は「訂正」を出す必要などなかった
  • 2
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 3
    【一発アウト】税務署が「怪しい!」と思う通帳とは?
  • 4
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」…
  • 5
    「健康寿命」を延ばすのは「少食」と「皮下脂肪」だ…
  • 6
    1日大さじ1杯でOK!「細胞の老化」や「体重の増加」…
  • 7
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 8
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 9
    世界初の研究:コーヒーは「飲む時間帯」で健康効果…
  • 10
    「DeepSeekショック」の株価大暴落が回避された理由
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中