最新記事

北朝鮮

北朝鮮の孤児たちは、牛糞まであさって飢饉を生き延びた

2017年11月24日(金)13時45分
ジェシカ・クウォン

北朝鮮の国営孤児院の昼食。寄付の減少で国連の援助も途絶えがちに(2003年、清津市) Gerald Bourke/World Food Programme/REUTERS

<北朝鮮の孤児院で子供時代を過ごした脱北者が、90年代の飢饉当時の悲惨な食糧事情を証言。北朝鮮では現在も1000万人以上が栄養不良の状態にある>

脱北者の証言から、90年代の飢饉の時代の悲惨な実態が明らかになった。北朝鮮の孤児院では、子供たちが牛糞から取り出した未消化のトウモロコシや、シラミまで食べて飢えをしのいでいた。

北朝鮮ニュースサイト「Daily NK」によると、こうした実態を証言したのは脱北者リ・ウィリョクで、北朝鮮が飢饉に苦しんだ90年代、特に孤児院の食糧事情は酷かった。

「下痢を起こした牛糞にトウモロコシの粒が残っていれば、それを洗って食べた」と、リは話している。リは90年代後半、10代に成長するまで孤児院で過ごした。

子供たちはシラミも食べた。シラミは血を吸うので、食べなければもったいないと考えていたからだ。「シラミをかむと血が溢れ出た」と、リは話している。

今も多くが栄養不良

さらに孤児院の子供たちは、日常的な虐待にも耐えなければならなかった。孤児院の職員は、ダニ退治のために火が付いた棒を子供たちに近づけ、逃げようとするとその棒で子供たちを叩いた。子供たちの多くがやけどを負っていた。

北朝鮮を94~98年に襲った飢饉では、国民の数十万人以上が死亡したと見られている。旧ソ連からの支援を失ったことで食糧生産が悪化し、これに洪水と干ばつが拍車をかけた。

北朝鮮は飢饉が発生する以前の90年から、子供の成育、保護を保障する国連の「子どもの権利条約」の署名国となっていた。金正恩党委員長は、国内での人権侵害行為を否定している。

この飢饉以降、北朝鮮の生活の質は向上したが、国全体が貧しく飢えていることに変わりはない。国連が今年3月に公表した報告書によると、北朝鮮では国民のうち1000万人以上が栄養不良の状態にある。

国民の不満は、脱北者の数値に表れている。韓国統一省によれば、飢饉の最後の年の98年以降、3万1000人以上が韓国に亡命している。

米朝間の緊張が高まった今年は、韓国の聯合通信によると、8月までの脱北者が780人と昨年同時期より減少した。北朝鮮の監視がさらに強化されたためと見られている。


今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米国株式市場=続伸、テスラ・アップルが高い FOM

ビジネス

テスラ株の空売り筋、過去4営業日の評価損が55億ド

ワールド

米・エジプト首脳が電話会談、ガザ停戦巡り協議

ビジネス

NY外為市場=円急騰、日本当局が介入との見方
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドローンを「空対空ミサイルで撃墜」の瞬間映像が拡散

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    AIパイロットvs人間パイロット...F-16戦闘機で行われた、史上初の「ドッグファイト」動画を米軍が公開

  • 4

    メーガン妃の「限定いちごジャム」を贈られた「問題…

  • 5

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 6

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 7

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 8

    19世紀イタリア、全世界を巻き込んだ論争『エドガル…

  • 9

    ナワリヌイ暗殺は「プーチンの命令ではなかった」米…

  • 10

    目の前の子の「お尻」に...! 真剣なバレエの練習中…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドローンを「空対空ミサイルで撃墜」の瞬間映像が拡散

  • 4

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 5

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 6

    AIパイロットvs人間パイロット...F-16戦闘機で行われ…

  • 7

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された…

  • 8

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 9

    日本マンガ、なぜか北米で爆売れ中...背景に「コロナ…

  • 10

    「誹謗中傷のビジネス化」に歯止めをかけた、北村紗…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の瞬間映像をウクライナ軍が公開...ドネツク州で激戦続く

  • 4

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 5

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 6

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 7

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 8

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 9

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 10

    「誰かが嘘をついている」――米メディアは大谷翔平の…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中