NYは毒入りリンゴ? 子ども5400人が鉛中毒に
ニューヨーク全体の鉛による汚染率は、2005年以降で最大86%低下した。だが、CDC基準の2倍に設定された市の基準を満たす鉛中毒の子どもたちの数は、2012年から2015年にかけて、ほどんと減っていない。
「残念ながら、全米でもこの地域でも、かつての急速な低下トレンドから横ばいに変化する兆候が見受けられる」と、住宅問題の専門家レベッカ・モーリー氏は言う。
ニューヨーク市の広報担当者は、積極的な対策によって鉛中毒が急激に減少したことを踏まえれば、同市とミシガン州フリントを比較することは「人騒がせで不正確」との声明を出した。
だがモーリー氏は、市の取り組みの成果を認めつつも、データは「鉛の汚染地区が局地的に取り残されている」事実を示していると指摘する。
ニューヨーク市は、鉛汚染に苦慮する数百もの米自治体の1つでしかない。ロイターは2年間に及ぶ調査で、血中鉛濃度が高い子どもの割合がフリントの2倍に上っている、全米の34州にある3810地区を特定した。
子どもの血中鉛濃度に、安全レベルなど存在しない。鉛汚染は、脳のダメージや知能低下、問題行動、生涯残る健康被害と関連付けられている。
執行上の問題
ニューヨークの住宅の約7割は、鉛を含んだペンキが普通に使われていた1950年代やそれ以前に建設されている。乳幼児は、そうした小さな硬貨程度の大きさのペンキの破片を飲み込んだり、そのほこりを吸い込んだだけで、鉛中毒になる可能性がある。
「小さな子どもが鉛中毒になるのは、主に住宅からだ」と、市の中毒防止プログラムを率いるデボラ・ナジン氏は語る。「鉛を含むペンキ使用が分かったら、それを放置しないことが大変重要だ」
鉛検査の訓練を受けた検査員400人を擁するニューヨーク市の住宅保全開発局(HPD)とナジン氏の部署は、緊密に連携している。
2004年制定された住宅に関する市条例は、危険な塗装を大家に指摘し、早急な修繕を求める権限をHPDに与えた。それ以後、鉛含有ペンキの条例違反でHPDが大家を摘発した件数は23万件に上る。
だが、ニューヨークの賃貸物件は200万件もあり、検査員は古い物件をすべて訪問することはできない。そして、2010年までに鉛中毒をゼロにするという2004年の条例が掲げた目標は、期日から7年過ぎた今も達成されないままだ。
その理由の1つは、鉛中毒の予防策を大家に義務付ける2つの条項について、市がほとんど実施状況を監視できていないことにある。
条項の1つは、幼い子どもが住む1960年代以前の住宅で毎年鉛含有ペンキの検査を行い、必要があれば修繕し、記録することを大家に義務付けている。もう1つの条項は、新しい賃借人の入居前に、塗装が特にはげやすい窓枠やドア枠の鉛含有ペンキを「恒久的に封印、または除去」することを求めている。
HPDが過去12年に摘発した条例違反の記録を調べたが、毎年のペンキ検査を実施しなかったとして大家が摘発された例は1件も見当たらなかった。新しい賃借人の入居前に窓やドアの枠を修繕しなかったとして摘発されたのは、2010年の1件だけだった。
「市当局が違反行為を取り締まらないのであれば、これらの義務に関心を払う人は誰もいなくなる」と、条例制定に関わったマシュー・シャシェール弁護士は言う。
デブラシオ市長は、コメントの求めに応じなかった。
ブルームバーグ前市長時代にHPD局長を務めたラファエル・セステロ氏は、こうした施策の履行は難しいと語る。「当局が実際できることについて、現実的な見方が必要だ」
入居者の苦情申し立てなどを受け、検査員が出向いて発見したペンキの条例違反の摘発にHPDは集中していると、同氏は付け加えた。