最新記事

セクハラは#MeTooで滅ぶのか

セクハラ告発#MeTooは日本にも広がるか

2017年11月28日(火)06時35分
大橋 希(本誌記者)

性暴力について考えていくと結局、性の問題というより、社会全般における男女格差に行き当たる。セクハラや性暴力は絶対的な権力関係の中で生じるもの。権力のある地位に就く女性が増え、男女の経済格差がなくなれば少しは状況も改善されるだろう。ところが世界経済フォーラムの17年版ジェンダーギャップ指数で、日本は144カ国中の114位。圧倒的に男性優位な社会だ(ちなみにアメリカも49位で、男女格差はいまだ大きい)。

しかも、性犯罪では他の犯罪と違い、恥の意識や「あなたにも落ち度がある」という非難が起こりやすく、口をつぐむ被害者が多い。内閣府の14年調査では、レイプされた女性で「どこにも相談しなかった」は67.5%、「警察に相談した」は4.3%。被害が明らかにならないから、社会も真剣に受け止めないという悪循環もありそうだ。

「集団レイプする人はまだ元気があるからいい。正常に近いんじゃないか」。03年に早稲田大学のサークルで集団レイプ事件が起きた際、太田誠一衆議院議員(当時、自民党)はそう語った。最近はこんなひどい女性蔑視発言はないと思いたいが、そんなことはない。13年に米軍に「もっと風俗業を活用してほしい」と促した橋下徹大阪市長(当時)。批判を受け撤回したが、昨年改めて「撤回しない方がよかったかも」とツイートした。

社会の中にも性差別的なメッセージがあふれている。PR動画でうなぎを少女に擬人化した鹿児島県志布志市の「うな子」、性的に描写した三重県志摩市の海女キャラクター「碧志摩(あおしま)メグ」、サントリーや宮城県の宣伝動画......女性を性的存在として強調し過ぎだと批判された事例は最近も多い。

#MeToo はほとんどの男性には無関係かもしれない。だが本当にそうか。

14年12月、男性上司からセクハラを受けていたサイゼリヤ勤務の20代女性が自殺する事件があった。娘を失った父親は自律神経が乱れ「事件後、(中略)初出勤の電車の中で失禁してしまった」と週刊誌に苦しみを語っている。「電車が苦手になり、(中略)途中で乗り降りを何回もして休み休み出勤しています」

大切な娘や妻や恋人が被害に遭うことは誰にでも起こり得る。

「男性自身が被害者になることもある。少し広げてパワハラなどでも同じだが、何らかの嫌がらせを受ける可能性があるとき、同じように苦しむ人を放っておいていいのかということだ」と、男性主体で女性への暴力防止に取り組む啓発運動「ホワイトリボンキャンペーン・ジャパン」の共同代表を務める多賀太(関西大学文学部教授)は言う。

多賀によれば、セクハラ問題には3つの段階がある。まず被害者が「嫌だが、どうしたらいいか分からない」と思う段階。次がセクハラという言葉が定義され、「悪いのは自分ではない」と気付く段階。そして、「社会に訴えたら聞き入れてもらえる」段階だ。

#MeToo が始まったアメリカやヨーロッパは、第3段階の入り口に立ったところ。日本はいつになったらその段階にたどり着くのだろうか。

※「セクハラは#MeTooで滅ぶのか」特集号はこちらからお買い求めいただけます。

【お知らせ】ニューズウィーク日本版メルマガのご登録を!
気になる北朝鮮問題の動向から英国ロイヤルファミリーの話題まで、世界の動きを
ウイークデーの朝にお届けします。
ご登録(無料)はこちらから=>>

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

アメリカン航空、今年の業績見通しを撤回 関税などで

ビジネス

日産の前期、最大の最終赤字7500億円で無配転落 

ビジネス

FRBの独立性強化に期待=共和党の下院作業部会トッ

ビジネス

現代自、関税対策チーム設置 メキシコ生産の一部を米
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
2025年4月29日号(4/22発売)

タイ・ミャンマーでの大摘発を経て焦点はカンボジアへ。政府と癒着した犯罪の巣窟に日本人の影

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    教皇死去を喜ぶトランプ派議員「神の手が悪を打ち負かした」の真意
  • 2
    トランプ政権はナチスと類似?――「独裁者はまず大学を攻撃する」エール大の著名教授が国外脱出を決めた理由
  • 3
    【クイズ】「地球の肺」と呼ばれる場所はどこ?
  • 4
    「スケールが違う」天の川にそっくりな銀河、宇宙初…
  • 5
    日本の10代女子の多くが「子どもは欲しくない」と考…
  • 6
    【クイズ】世界で最もヒットした「日本のアニメ映画…
  • 7
    アメリカは「極悪非道の泥棒国家」と大炎上...トラン…
  • 8
    「生はちみつ」と「純粋はちみつ」は何が違うのか?.…
  • 9
    【クイズ】世界で1番「iPhone利用者」の割合が高い国…
  • 10
    トランプの中国叩きは必ず行き詰まる...中国が握る半…
  • 1
    「生はちみつ」と「純粋はちみつ」は何が違うのか?...「偽スーパーフード」に専門家が警鐘
  • 2
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ? 1位は意外にも...!?
  • 3
    しゃがんだ瞬間...「えっ全部見えてる?」ジムで遭遇した「透けレギンス」投稿にネット騒然
  • 4
    「スケールが違う」天の川にそっくりな銀河、宇宙初…
  • 5
    【クイズ】「地球の肺」と呼ばれる場所はどこ?
  • 6
    【渡航注意】今のアメリカでうっかり捕まれば、裁判…
  • 7
    女性職員を毎日「ランチに誘う」...90歳の男性ボラン…
  • 8
    【クイズ】売上高が世界1位の「半導体ベンダー」はど…
  • 9
    教皇死去を喜ぶトランプ派議員「神の手が悪を打ち負…
  • 10
    『職場の「困った人」をうまく動かす心理術』は必ず…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった...糖尿病を予防し、がんと闘う効果にも期待が
  • 3
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 4
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 5
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 6
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 7
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 8
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 9
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 10
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中