モーリー・ロバートソン:北朝鮮を巡る未来を暗示する「米史上最悪の救出作戦」
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自分のイラク戦争の歴史観が書き変わった
──「見たくない真実をフィクションの形で伝える」という点では、今作「ロング・ロード・ホーム」も共通している?
ええ、「ロング・ロード・ホーム」も同じで、「24 -TWENTY FOUR-」でFOXが確立させた「見たくない真実をフィクションで伝える」という新たなジャンルのドラマシリーズだと思います。静かに迫りくるリアルな戦争が、フィクションとはいえ丸裸のように描かれている。
当時のCNNなどの映像では絶対に見られないような「本当の戦地から見る戦争」。アメリカの若い兵士や現地の少年兵が、なぜ戦争に巻き込まれているのかもよくわからないまま無意味に死んでいく。そうした戦争のロマンに対するネタバレ的なところもあって、当時このドラマシリーズを放送していたら、アメリカ国民の誰もがイラク戦争に反対したのではないかとすら思う。
それくらいにリアルな戦争が淡々と描かれているんだけれど、ドラマとしても面白い。これまでに見たことがない視点だから、まだ3話しか観ていないのに、すでに自分のなかにあったイラク戦争の歴史が書き換わっています(笑)
──現在、緊迫する北朝鮮問題に直面する日本人にとっても、イラク戦争から学ぶべきことは数多い。日本の視聴者が今「ロング・ロード・ホーム」を観る意義は?
アメリカがナイーブに見たいものを見ていた時代と同じように、今の日本の人たちも見たいものをだけを見ているように思います。憲法9条があるから戦争には巻き込まれない、北朝鮮とはなんだかんだ言って対話で解決できる。いざとなればアメリカがどうにかしてくれるだろう、と。
とはいえ、もし金正恩体制が倒れたとしても、その後にはイラク戦争後の中東のような、もしかするとさらに酷い状況が待っている可能性だってある。でも、アメリカと同じで日本でもメディアは国民が見たくないものは報道しないんです。北朝鮮のミサイルだったりシリアの人質事件だったり、それぞれの事象は報道するけれど、実際に戦争になったらどうなるのかといったシミュレーションは決してテレビや新聞などのメディアで伝えませんよね。
だからこそ、「ロング・ロード・ホーム」のようなフィクションを通じて、汚れた未来もあり得るということを知るのはとても大切だと思います。北朝鮮からミサイルが飛んできて、日本のなかでも多くの人が今、より強く平和を信じるだけではもはや通用しないということを感じているかもしれない。
そこで、イラク戦争の前触れや、混乱のなかでアメリカがどのような決定をしたのか、その結果として戦場では何が起きていたのかといったことを知っておく。戦争という言葉を口にするだけでも嫌だという人でも、ドラマや映画などのフィクションなら共感できたり、感動できたりもしますからね。
これからの日本が歩む未来についての、多少の暗示や寓話として「ロング・ロード・ホーム」を観る意義は大きいと思います。
モーリー・ロバートソン
日米双方の教育を受けた後、1981年に東京大学に現役合格。1988年ハーバード大学を卒業。国際ジャーナリストからミュージシャンまで、幅広い分野で活躍中。
【作品紹介】
イラク戦争の重要な転機となった武力衝突事件「ブラックサンデー」。日本ではあまり知られていないその実際の出来事を、ナショナル ジオグラフィックが総力を挙げて克明に描いた全8話のドラマシリーズが、この『ロング・ロード・ホーム』だ。その時、イラクの最前線で何が起きていたのか。死の恐怖と直面した兵士たちは何を思い、行動したのか。観る者の胸を揺さぶる感動と緊迫の戦争ドラマ大作だ。
【視聴チャンネル&放送日時】ナショナル ジオグラフィックにて放送。
放送開始日時:11月28日(火)スタート
毎週火曜日21:00-22:00
※初回のみ2話連続放送
詳しくは:http://natgeotv.jp/