最新記事

朝鮮半島

トランプの強気が招く偶発的核戦争

2017年10月19日(木)19時41分
ダン・デ・ルーチェ、ジェナ・マクローリン、エリアス・グロル

北朝鮮は7月3日に米本土を射程に収めるICBM(大陸間弾道ミサイル)の発射実験を実施。その2か月後には6回目の核実験を行い、水爆だったと主張した。この頃から、トランプと金正恩の言い争いは激しさを増した。トランプが金を「小さいロケットマン」と呼べば、金もトランプを「アメリカの狂った老いぼれ」と言い返した。

軍備管理の専門家や元米軍関係者は、アメリカが北朝鮮を侮辱するたび、北の挑発がエスカレートすると危惧している。北朝鮮外務省は9月の声明で、金は核弾頭を搭載したミサイルを太平洋上で爆発させることを検討中だと言った。まさに攻撃的な行為で、アメリカは軍事行動を取らざるを得なくなる。

「計算ミスから衝突が起きる危険もある。トランプがあまり金を罵ると、金は国内で弱腰と映らないために強硬手段をとらざるを得なくなる」と、元米軍高官は言う。

「双方の指導者が過激な言葉のバトルを行った結果、互いに過剰反応を引き起こし、収拾がつかない事態に発展するかもしれない。過去にも指導者同士がうっかり戦争を引き起こしたケースはあるが、核保有国同士では前例がない」

ジェームズ・マティス米国防長官は9月、アメリカとグアムを含む米領やアメリカの同盟国に対するいかなる脅威にも「大規模な軍事攻撃」で報復すると北朝鮮に警告した。マティスはその後、韓国の首都ソウルのアメリカ人や韓国人を危険にさらさずに報復攻撃を行うことは可能だと言ったが、そのための具体的な軍事的手段は明かさなかった。

ソ連の誤解であわや核戦争

米軍はこれまで、韓国軍や日本の自衛隊と共同訓練を実施し、韓国に攻撃型原子力潜水艦を派遣し、韓国上空や北朝鮮沿岸に戦略爆撃機を飛行させるなどして、北朝鮮を強く牽制してきた。

金や歴代の北朝鮮政権は、アメリカとの間で何度も小競り合いを起こしたにも関わらず、全面的な対決は避けてきた。それはまさに、金一族が体制維持を何よりも重視している証拠だと、今年CIAに新設された「コリア・ミッション・センター」のヨンソク・リーは言う。

「米朝衝突を絶対に避けたいと思っているのは金正恩だ。金は死ぬまで長期政権を全うすることを望んでいる」とリーは言う。アメリカを相手に戦争を起こすなど「長生きの助けにならない」

冷戦中は、アメリカとソ連の間で核戦争寸前までいった危機一髪やニアミスがいくらでもあった。なかでも1983年にNATO(北大西洋条約機構)が「エイブル・アーチャー」作戦と名付けた核ミサイル発射訓練を実施した時は、ソ連側がその訓練を本物の核攻撃を偽装したものだと誤解し、あわや核戦争になるところだった。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

米プリンストン大への政府助成金停止、反ユダヤ主義調

ワールド

イスラエルがガザ軍事作戦を大幅に拡大、広範囲制圧へ

ワールド

中国軍、東シナ海で実弾射撃訓練 台湾周辺の演習エス

ワールド

今年のドイツ成長率予想0.2%に下方修正、回復は緩
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:引きこもるアメリカ
特集:引きこもるアメリカ
2025年4月 8日号(4/ 1発売)

トランプ外交で見捨てられ、ロシアの攻撃リスクにさらされるヨーロッパは日本にとって他人事なのか?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大はしゃぎ」する人に共通する点とは?
  • 2
    8日の予定が286日間に...「長すぎた宇宙旅行」から2人無事帰還
  • 3
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 4
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
  • 5
    磯遊びでは「注意が必要」...6歳の少年が「思わぬ生…
  • 6
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「…
  • 7
    イラン領空近くで飛行を繰り返す米爆撃機...迫り来る…
  • 8
    【クイズ】アメリカの若者が「人生に求めるもの」ラ…
  • 9
    「隠れたブラックホール」を見つける新手法、天文学…
  • 10
    あまりにも似てる...『インディ・ジョーンズ』の舞台…
  • 1
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 2
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「最大の戦果」...巡航ミサイル96発を破壊
  • 3
    800年前のペルーのミイラに刻まれた精緻すぎるタトゥーが解明される...「現代技術では不可能」
  • 4
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 5
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 6
    ガムから有害物質が体内に取り込まれている...研究者…
  • 7
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 8
    一体なぜ、子供の遺骨に「肉を削がれた痕」が?...中…
  • 9
    「この巨大な線は何の影?」飛行機の窓から撮影され…
  • 10
    現地人は下層労働者、給料も7分の1以下...友好国ニジ…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 3
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛ばす」理由とは?
  • 4
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山…
  • 5
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやス…
  • 6
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 7
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 8
    テスラ販売急減の衝撃...国別に見た「最も苦戦してい…
  • 9
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 10
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中