トランプの強気が招く偶発的核戦争
北朝鮮は7月3日に米本土を射程に収めるICBM(大陸間弾道ミサイル)の発射実験を実施。その2か月後には6回目の核実験を行い、水爆だったと主張した。この頃から、トランプと金正恩の言い争いは激しさを増した。トランプが金を「小さいロケットマン」と呼べば、金もトランプを「アメリカの狂った老いぼれ」と言い返した。
軍備管理の専門家や元米軍関係者は、アメリカが北朝鮮を侮辱するたび、北の挑発がエスカレートすると危惧している。北朝鮮外務省は9月の声明で、金は核弾頭を搭載したミサイルを太平洋上で爆発させることを検討中だと言った。まさに攻撃的な行為で、アメリカは軍事行動を取らざるを得なくなる。
「計算ミスから衝突が起きる危険もある。トランプがあまり金を罵ると、金は国内で弱腰と映らないために強硬手段をとらざるを得なくなる」と、元米軍高官は言う。
「双方の指導者が過激な言葉のバトルを行った結果、互いに過剰反応を引き起こし、収拾がつかない事態に発展するかもしれない。過去にも指導者同士がうっかり戦争を引き起こしたケースはあるが、核保有国同士では前例がない」
ジェームズ・マティス米国防長官は9月、アメリカとグアムを含む米領やアメリカの同盟国に対するいかなる脅威にも「大規模な軍事攻撃」で報復すると北朝鮮に警告した。マティスはその後、韓国の首都ソウルのアメリカ人や韓国人を危険にさらさずに報復攻撃を行うことは可能だと言ったが、そのための具体的な軍事的手段は明かさなかった。
ソ連の誤解であわや核戦争
米軍はこれまで、韓国軍や日本の自衛隊と共同訓練を実施し、韓国に攻撃型原子力潜水艦を派遣し、韓国上空や北朝鮮沿岸に戦略爆撃機を飛行させるなどして、北朝鮮を強く牽制してきた。
金や歴代の北朝鮮政権は、アメリカとの間で何度も小競り合いを起こしたにも関わらず、全面的な対決は避けてきた。それはまさに、金一族が体制維持を何よりも重視している証拠だと、今年CIAに新設された「コリア・ミッション・センター」のヨンソク・リーは言う。
「米朝衝突を絶対に避けたいと思っているのは金正恩だ。金は死ぬまで長期政権を全うすることを望んでいる」とリーは言う。アメリカを相手に戦争を起こすなど「長生きの助けにならない」
冷戦中は、アメリカとソ連の間で核戦争寸前までいった危機一髪やニアミスがいくらでもあった。なかでも1983年にNATO(北大西洋条約機構)が「エイブル・アーチャー」作戦と名付けた核ミサイル発射訓練を実施した時は、ソ連側がその訓練を本物の核攻撃を偽装したものだと誤解し、あわや核戦争になるところだった。