対北朝鮮政策は、冷戦の「抑止の歴史」に学べ
同盟国の疑念を晴らせるか
金が核兵器の保有を急ぐのも、おそらく抑止力のためだろう。北朝鮮の狙いは、アメリカやその他の国からの攻撃を防ぐことにある。
祖父・金日成(キム・イルソン)の時代から、金王朝は「複数の鯨の間に挟まれたエビ」である朝鮮半島においては、鯨同士を争わせることが自国が生き残るすべだと考えてきた。北朝鮮にとって核兵器はイデオロギーの締め付けと強烈な「口撃」と共に、この戦略のための貴重な道具であり続けた。
スタンフォード大学アジア太平洋研究センターのダニエル・スナイダーは、「彼らは20年前から、あらゆる譲歩を引き出すために核兵器を利用してきた」と指摘する。スナイダーによれば、「北朝鮮の体制はひどい失政と飢饉のせいで、90年代に崩壊してもおかしくなかった」。
だが金王朝は、当時まだ初期段階だった核開発プログラムを交渉の切り札に使い、食糧や石油などの支援を獲得した。この戦略は実際に核兵器を手にした今も変わっていない。
アメリカに到達するICBM(大陸間弾道ミサイル)の開発によって、北朝鮮は少なくとも理論上はより強力な交渉材料を手に入れた。冷戦時代のアメリカは、ヨーロッパとアジアの同盟国に安全保障の傘を提供していた。その究極の裏付けは、いわゆる「拡大抑止」の考え方――同盟国への攻撃を自国領土への攻撃と見なし、核兵器の使用を含めて後者の場合と同等の反撃に出るという宣言だった。
冷戦初期にソ連が長距離核兵器を保有したとき、ある疑問が浮上した。ソ連が西欧を攻撃した場合、アメリカは本当に、核による米本土への反撃を覚悟の上でソ連に核攻撃をするのか。つまり、アメリカはベルリンを守るためにボストンを危険にさらす用意があるのか、というわけだ。
もし北朝鮮がアメリカの領土を核攻撃する能力を獲得すれば、同じ疑問が持ち上がる――アメリカは、ソウルを守るためにサンフランシスコを危険にさらす用意があるのか。
そのような状況になったとき、本当に脅かされるのはサンフランシスコの安全ではない。冷戦時代にソ連の長距離核兵器がもたらした真の脅威は、アメリカの都市にミサイルを撃たれることではなかった。ソ連の狙いは、アメリカと西欧の同盟関係にくさびを打ち込むことにあった。同じように、北朝鮮はアメリカと東アジア諸国、とりわけ韓国との絆を切り裂くことを狙っているように見える。