最新記事

パキスタン

なぜ祖国パキスタンがマララを憎むのか

2017年9月11日(月)11時05分
マイケル・クーゲルマン

マララに嫉妬する中間層

もちろん、パキスタンでも急速な都市化で新たな雇用が生まれ、貧困を脱して中産階級の仲間入りを果たす人は増えている。しかし、さらに上流階級への階段を上るのは不可能に近い。

にもかかわらずマララは一介の教師の娘から、一足飛びで世界的なセレブへと上り詰めた。そしてこの秋からは、イギリスの名門オックスフォード大学に進学する。

こんなにも早く、こんなにも劇的な変身を、パキスタンの人々は見慣れていない。だから本当のこととは思えず、何か裏があると思いたくなる。ペシャワル大学のアーマー・ラサ准教授の言うとおり「社会の階段を上ろうとしてもどうせ失敗すると思い込んでいるから、急にリッチになるような人には不信感を抱いてしまう」のだろう。

【参考記事】イランがズンバ(ZUMBA)を禁止--リズミカルな動きは非イスラム的

パキスタンでマララを最も声高に支持しているのが特権階級の人々である理由も、そこにあるのかもしれない。自分が特権階級なら、マララに嫉妬する必要も敵意を抱く必要もない。

しかし苦労して貧困からはい上がり、ようやく中産階級にたどり着いた人たちはどうか。彼らがさらに飛躍して裕福になり、あるいは有名になるチャンスはほとんどない。だからマララが名声を得るようになったことを腹立たしく思う感情が、より強く芽生えるのだろう。

若さ、くじけない力、勇気、国を愛する気持ち。マララが体現するものは、パキスタンという国とその国民が誇るべき資質である。しかし彼女の成功はパキスタンの陰の部分を映し出してもいる。それはテロが絶えず、性差別が根強く残り、陰謀説が渦巻く現実だ。階級格差も深刻で、みんなが共通の価値観を持てる状況ではない。

世界のヒーローが悪者にみえてしまうほど複雑で、引き裂かれた国パキスタン。それでもいつかは戻りたいと、マララは念じている。祖国だから。

【お知らせ】ニューズウィーク日本版メルマガリニューアル!
 ご登録(無料)はこちらから=>>

[2017年9月12日号掲載]

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

トランプ氏、米軍制服組トップ解任 指導部の大規模刷

ワールド

アングル:性的少数者がおびえるドイツ議会選、極右台

ワールド

アングル:高評価なのに「仕事できない」と解雇、米D

ビジネス

米国株式市場=3指数大幅下落、さえない経済指標で売
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ウクライナが停戦する日
特集:ウクライナが停戦する日
2025年2月25日号(2/18発売)

ゼレンスキーとプーチンがトランプの圧力で妥協? 20万人以上が死んだ戦争が終わる条件は

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン化」の理由
  • 3
    メーガン妃が「アイデンティティ危機」に直面...「必死すぎる」「迷走中」
  • 4
    1888年の未解決事件、ついに終焉か? 「切り裂きジャ…
  • 5
    深夜の防犯カメラ写真に「幽霊の姿が!」と話題に...…
  • 6
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 7
    ソ連時代の「勝利の旗」掲げるロシア軍車両を次々爆…
  • 8
    私に「家」をくれたのは、この茶トラ猫でした
  • 9
    トランプが「マスクに主役を奪われて怒っている」...…
  • 10
    飛行中の航空機が空中で発火、大炎上...米テキサスの…
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される【最新研究】
  • 3
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン化」の理由
  • 4
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 5
    動かないのに筋力アップ? 88歳医大名誉教授が語る「…
  • 6
    朝1杯の「バターコーヒー」が老化を遅らせる...細胞…
  • 7
    7年後に迫る「小惑星の衝突を防げ」、中国が「地球防…
  • 8
    ビタミンB1で疲労回復!疲れに効く3つの野菜&腸活に…
  • 9
    「トランプ相互関税」の範囲が広すぎて滅茶苦茶...VA…
  • 10
    飛行中の航空機が空中で発火、大炎上...米テキサスの…
  • 1
    週刊文春は「訂正」を出す必要などなかった
  • 2
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 3
    【一発アウト】税務署が「怪しい!」と思う通帳とは?
  • 4
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」…
  • 5
    「健康寿命」を延ばすのは「少食」と「皮下脂肪」だ…
  • 6
    1日大さじ1杯でOK!「細胞の老化」や「体重の増加」…
  • 7
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 8
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 9
    世界初の研究:コーヒーは「飲む時間帯」で健康効果…
  • 10
    「DeepSeekショック」の株価大暴落が回避された理由
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中