最新記事

サウジアラビア

大巡礼ハッジで贅沢三昧? 聖地メッカのリゾート化に批判の声

2017年8月31日(木)17時42分
トム・オコナー

ハッジの期間中、大モスク近くのショッピングモールで買い物する巡礼者 Muhammad Hamed- REUTERS

<すべてのイスラム教徒が平等になる大モスクの周辺は最高級ホテルやモールなど不動産開発ブーム。裏には、巡礼や観光で原油に代わる収入を得たいサウジの思惑が>

イスラム教で年に1度の大巡礼ハッジが8月30日に始まった。9月4日までの期間中、200万人近い信者が世界各地から聖地メッカのあるサウジアラビアを訪れる。メッカの大モスク巡礼中は、すべてのイスラム教徒が平等になる。男女が同じ場所で祈れる世界でも数少ないモスクの1つだ。

だが聖地を一歩出ればそこは、王族から一文無しまで不平等な世界。なかでも近年目立つのは、大モスクから目と鼻の先の最高級ホテル開発と、そのための史跡破壊だ。

サウジアラビアは、年に1度の巡礼で贅沢三昧できる富裕層向けのオプションを多数用意している。英BBCによれば、巡礼者向けパッケージツアーを専門に扱う旅行会社は毎年ハッジで莫大な利益を出し、サウジアラビア政府も年100億ドル程度(2015年)の収入を得る。原油価格の下落で産油国としての将来に不安が広がるなか、同政府は収入源を多様化する方法として、観光や巡礼の将来性に大きな期待を寄せているのだ。

あるハッジ専門会社が扱ういちばん高いパッケージツアーは2週間で1人1万1500ドル。ニューヨークからサウジアラビア西部の都市ジッダまでの往復航空券、メッカにある5つ星ホテル「モーベンピック・ホテル」6泊、もう一つの聖地メディナにある4つ星ホテル「ダラー・タイバー・ホテル」4泊、メッカ近くの町ミナやアラファト山での巡礼キャンプ、冷暖房付きバス、荷物の持ち運びサービスなどが含まれている。

(聖地を見下ろすMecca Clock Royal Tower)


「世界最大のホテル」建設再開

大モスク周辺には、インターコンチネンタル・ダル・アル・タルヒードや、ラッフルズ・メッカ・パレス、メッカ・クロック・ロイヤル・タワーなどの最高級ホテルが並ぶ。宿泊客はスパや高級レストラン、聖地の景色を堪能でき、宿泊料は1泊につき数百ドルだ。

(Raffles Mecca Palace)


サウジアラビアの建設会社サウジ・ビンラディン・グループは今、大モスクから1ブロックしか離れていない場所で、原油安などで中断していた世界最大のホテル「アブラジ・クダイ」の建設を再開した。英紙ガーディアンによれば、45階建ての巨大ホテルには12の塔があり、1万室の客室と70のレストラン、5つの屋上ヘリポートを完備する。5つのフロアはサウジ王室専用だという。

(世界最大のホテルAbraj Kudai)


もっとも、過剰に華美さを求める傾向には批判の声も上がっている。大モスクの周囲には、高級ホテルだけでなく、有名ブランドからファーストフードチェーンまでの店舗を集めた巨大ショッピングモールが建っている。メッカの歴史的な街並みの大部分は、こうした不動産開発のために破壊された。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

ミャンマー地震の死者1000人超に、タイの崩壊ビル

ビジネス

中国・EUの通商トップが会談、公平な競争条件を協議

ワールド

焦点:大混乱に陥る米国の漁業、トランプ政権が割当量

ワールド

トランプ氏、相互関税巡り交渉用意 医薬品への関税も
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:まだ世界が知らない 小さなSDGs
特集:まだ世界が知らない 小さなSDGs
2025年4月 1日号(3/25発売)

トランプの「逆風」をはね返す企業の努力が地球を救う

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 2
    現地人は下層労働者、給料も7分の1以下...友好国ニジェールからも追放される中国人
  • 3
    一体なぜ、子供の遺骨に「肉を削がれた痕」が?...中国・河南省で見つかった「異常な」埋葬文化
  • 4
    なぜ「猛毒の魚」を大量に...アメリカ先住民がトゲの…
  • 5
    突然の痛風、原因は「贅沢」とは無縁の生活だった...…
  • 6
    なぜANAは、手荷物カウンターの待ち時間を最大50分か…
  • 7
    不屈のウクライナ、失ったクルスクの代わりにベルゴ…
  • 8
    アルコール依存症を克服して「人生がカラフルなこと…
  • 9
    最古の記録が大幅更新? アルファベットの起源に驚…
  • 10
    最悪失明...目の健康を脅かす「2型糖尿病」が若い世…
  • 1
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山ダムから有毒の水が流出...惨状伝える映像
  • 2
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き詰った「時代遅れ企業」の行く末は?【アニメで解説】
  • 3
    「低炭水化物ダイエット」で豆類はNG...体重が増えない「よい炭水化物」とは?
  • 4
    「テスラ離れ」止まらず...「放火」続発のなか、手放…
  • 5
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
  • 6
    【独占】テスラ株急落で大口投資家が本誌に激白「取…
  • 7
    800年前のペルーのミイラに刻まれた精緻すぎるタトゥ…
  • 8
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大…
  • 9
    大谷登場でざわつく報道陣...山本由伸の会見で大谷翔…
  • 10
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    テスラ離れが急加速...世界中のオーナーが「見限る」ワケ
  • 3
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 4
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛…
  • 5
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山…
  • 6
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやス…
  • 7
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 8
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 9
    テスラ販売急減の衝撃...国別に見た「最も苦戦してい…
  • 10
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中