かい離する政治と経済、トランプはますますクリントンに似てきた
対照的に、経済は順調に推移した。2期目に盛り上がったITブームにも助けられ、在任中の実質GDP成長率は、年平均で約4%を記録している。好調な経済による税収増に助けられ、問題だった財政赤字も急速に減少した。就任時は3,200ドル台で始まったダウ工業株30種平均株価は、1999年には1万ドルの大台を突破している。
年老いた景気
トランプ政権においても、このまま政治と経済のかい離が定着する可能性はある。しかし、トランプ政権とクリトン政権のあいだには、二つの重要な違いがあることは見逃せない。
第一に、景気の成熟度合いが違う。いずれの政権においても、初期の好調な株価は、前政権から引き継いだ景気拡大に助けられた側面が大きい。ただし、クリントン政権の場合は、景気回復の始まりが就任2年前の1991年からだったのに対し、今の景気拡大は2009年から始まっている。まだ景気拡大が若かったクリトン政権の時代と違い、景気の持続力が注目される局面に差しかかってきた。FRBが量的緩和政策で買い入れてきた保有資産の縮小が検討されるなど、長らく続いてきた金融緩和局面も、いよいよ転換点を迎えつつある。
景気の力が弱くなれば、政治の混乱に引きずられやすくなる。有権者の不満が高まれば、さらに政治が不安定化する悪循環にも陥りかねない。
クリントン政権「世界を救う委員会」
第二に、トランプ政権の危機対応力は試されていない。いざ危機が発生した時には、政治の力が必要になる。一定の成果を残したクリントン政権に対し、トランプ政権の危機管理能力は未知数である。
クリントン政権の時代でも、肝心な局面では政治が経済を守っていた。国内から海外に目を転じると、クリントン時代の経済が無風だったわけではない。1995年のメキシコ危機、1997年のアジア通貨危機、さらには1998年のロシア危機と、世界経済は大荒れだった。ロシア危機の影響で大手ヘッジファンドが破たんするなど、その悪影響は米国にも及びそうだった。
当時のクリントン政権は、IMF(国際通貨基金)などと連携しながら、何とか危機を乗り切った。1999年2月に米タイム誌は、指揮を執ったルービン財務長官とサマーズ財務副長官、さらにはグリーンスパンFRB議長を、「世界を救う委員会」と評している。後にオバマ政権で財務長官となるガイトナーも、当時は財務次官として危機対応に当たっていた。
一方のトランプ政権では、人事の遅れが著しい。経済運営においても、コーン経済担当補佐官には安定感がみられるものの、財務省は副長官すら決まっていない有様だ。
クリントン政権の終盤には、政権と敵対するはずの共和党系のシンクタンクですら、「いずれダウは3万3,000ドルに達する」と威勢の良い分析を発表していた。今、その筆者の一人であるハセット氏は、トランプ政権で経済諮問員会の委員長を務めている。これも奇妙な符号だが、クリントン政権とトランプ政権の違いを考えると、同じように威勢の良い分析を発表するには、少々勇気が必要かもしれない。
安井明彦
1991年富士総合研究所(現みずほ総合研究所)入社、在米日本大使館専門調査員、みずほ総合研究所ニューヨーク事務所長、同政策調査部長等を経て、2014年より現職。政策・政治を中心に、一貫して米国を担当。著書に『アメリカ選択肢なき選択』などがある。