ポストISIS戦略に残る不安
アフガニスタン駐留米軍がアフガン地方警察を育成した際は、その目的として同国政府軍の目が行き届かないような地方への派遣がうたわれ、当初はうまく機能しているように見えた。だが人員が約3万人に膨れ上がり、各地で複数の小グループが活動するようになると、治安維持に成功する地域がある一方で、窃盗やレイプ、嫌がらせや汚職などで罪に問われる隊員が後を絶たなくなった。
「新たに誕生した治安部隊が、これまで支配していたテロ組織よりも信頼性に欠けるなどということは許されない」と、元米国務省のある高官は言う。「懸念を抱く地元市民に不信感を抱かせてはいけない。掃討作戦が続く場所で取り調べや拘束を行う際も、慎重の上に慎重を重ねて実施しなければならない」
ラッカでの訓練計画に詳しいある米政府高官によれば、治安部隊育成の目的は、人道支援組織がラッカ市内で活動できるようにするなど、「許容範囲の治安環境を整える」ことだという。ラッカに秩序が戻り、市民が自力で統治できるようになった暁には、「有志連合は後方支援する役に回ることになるだろう」と、この高官は言う。
ラッカ陥落を目前にして、周辺地域には既に米国際開発庁(USAID)や国連が、水や食料、医薬品や発電機といった人道援助物資を運び込んで待機している。だが市を運営し、住民サービスを提供していくのも、いずれはラッカ市民協議会に任されることになるだろう。
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静観のイランとヒズボラ
同協議会は、市民との絆を築くことに力を入れている。先月末にはSDFに拘束されていたISISの下級戦闘員83人(いずれもラッカ市民で戦闘には関わっていなかった)に恩赦を与えた。こうした動きは、ラマダン(断食月)明けの休日「イード・アル・フィトル」を迎えた市民に好印象を残した。
一方で、治安部隊と市民協議会は厳しい問題に直面している。アラブ人やクルド人、その他の少数民族で構成される協議会は、アラブ人市民から疑念の目で見られる可能性がある。
「クルド勢力から指名され、クルド人に協力しているとみられるアラブ人はひょっとすると、良くて信用ならない奴、悪くて何らかのスパイだと思われるかもしれない」と、大西洋協議会中東センターの上級研究員ファイサル・イタニは言う。「だからこそアラブ人の身元調査は厳格に行われなければならないし、クルド勢力との関係が非常に重視される」
市民の多くも、新たな治安部隊に疑いの目を向けるかもしれない。治安部隊要員は協議会メンバーと同様、ラッカ市内を離れて暮らしていた。その上、今後ラッカを支配するようになる者が誰であれ、シリア政府やロシア政府に支援を求めて彼らと取引する可能性も排除できない。シリア北部のクルド人グループもかつてそうしたように。
シリア政府の後ろ盾となって戦闘に加わってきたイランもレバノンのイスラム教シーア派武装組織ヒズボラも、ラッカの奪還作戦を静観し、終結をじっと待っていると、イタニは指摘する。そうしながら「シリアにおけるアメリカの野望と戦略がどの程度なのかを見極めている」のだという。
イランもヒズボラも、ISISから奪還した地域で米軍が永続的なプレゼンスを確立しようとする事態は「受け入れられないだろう」と、イタニは言う。
そうなればイランとヒズボラは、米軍とシリア国内の「米軍の手先」に、ゲリラ戦を仕掛けてくるかもしれない。彼らがかつて、イラクで駐留米軍にひそかに攻撃を仕掛けていたときのように。
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[2017年7月11日号掲載]