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戦後日本のグラフィック・デザインをつくった男、亀倉雄策

2017年6月17日(土)18時00分
ニューズウィーク日本版ウェブ編集部

『Pen Books 名作の100年 グラフィックの天才たち。』より。左ページは、1964年の東京オリンピックのポスター。右ページ上は、1970年の札幌オリンピック。右ページ下は、1969年のEXPO’70のポスターである。いずれも亀倉雄策が手掛けた

<まだグラフィック・デザインが軽視されていた時代に現れた。生涯を通じ第一線のデザイナーであり続け、デザインが社会に認知される土壌づくりに心血を注いだ。その男、亀倉雄策とは何者か>

グラフィック・デザインの20世紀の巨匠10人を取り上げた『Pen BOOKS 名作の100年 グラフィックの天才たち。』(ペン編集部・編、CCCメディアハウス)。その中の1人が、亀倉雄策である。

美術の教科書に出てくるほどだが、没後20年近くを経た今も鮮やかな残像を投げかける。その名は知らなくとも、1964年の東京オリンピックのポスター(上の左ページ)を見たことのある人は少なくないだろう。日の丸と五輪を、亀倉が大胆にレイアウト。高度経済成長期の日本にふさわしい力強いデザインだ。

今日、社会・経済のあらゆる面において、デザインの重要性が増している。だからこそ、グラフィック・デザインにどのような力があるのか、知っておいて損はない。そして、そのためには歴史を振り返ることも重要である。

本書ではほかにも、原 研哉氏の「グラフィック論」や、大阪芸術大学・三木 健教授の人気講座"APPLE"、現在活躍中のクリエイターなどを紹介。ここでは一部を抜粋し、4回に分けて転載する。

第3回は「グラフィックの100年を動かした、巨匠10人の軌跡。」より、アートディレクターの色部義昭氏が語る亀倉雄策の功績について。「戦後日本のグラフィック・デザインをつくった男」である。

※第1回:この赤い丸がグラフィック・デザインの力、と原研哉は言う
※第2回:「絵文字」を発明したのは、デザイナーでなく哲学者だった

◇ ◇ ◇

 

亀倉雄策 Yusaku Kamekura  1915-1997
アートディレクター
図案家として入社した共同広告などを経て、1937年、22歳で日本工房に入社。対外宣伝用グラフ誌『NIPPON』のデザインおよび編集に携わる。戦後は日本宣伝美術会や日本デザインセンターの創立にも参加。優れたデザイン制作で注目を浴びる一方で、業界団体や国際会議におけるキーパーソンとして確固たる地位を占めた。

亀倉雄策(語り手:色部義昭)

人々の意思を束ねた、象徴性と求心力。

「戦後日本のグラフィック・デザインをつくった男」。亀倉雄策をひと言で表すならそうなるだろう。生涯を通じ第一線のデザイナーであり続け、一方である種の政治力と発言力をもってデザイナーの存在を財界にアピールし、デザインが社会に認知され、発展していくための土壌づくりに心血を注いだ。

「僕らはいまも亀倉の敷いたレールの上を走り続けているんじゃないか」

 そう色部義昭さんは漏らす。かつて"美術の教科書に出ていた偉人"であった亀倉は、没後20年近くを経たいまも鮮やかな残像を投げかけている。

 旧制中学を卒業後、「少年図案家求む」の求人広告に応募し、140人の中からただひとり選ばれて広告会社に入社したのが、亀倉のキャリアの始まりである。1930年代当時のグラフィック・デザインは、「図案」という装飾の一部にすぎない扱い。そこに疑問を呈し、デザインという概念を社会に定着させることに執着したのが、ほかならぬ亀倉雄策であった。

「それまで画家の副業のように思われていたグラフィック・デザインの仕事を、社会と経済活動をドライブさせる重要な役割と定義して、絵画とは違う効用があることを示したのです」

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