フィリピンが東南アジアにおけるISISの拠点になる?
安全保障が専門のローハン・グナラトナはロイター通信に対し、今回の衝突を機にフィリピン政府は目を覚ますべきだと指摘した。「フィリピンの主要都市の1つをISISが掌握したことは、地域の治安と安定にとって非常に由々しき事態だ。ISISのイデオロギーが自分たちの国を浸食している事実を理解しなければならない。地元の武装組織がISISに変貌してしまったのだから。フィリピン国民は一致団結して立ち向かわなければならない」
ドゥテルテはミンダナオ島の最大都市ダバオの市長として頭角を現し、昨年の大統領選でフィリピンに安定と平和をもたらすという公約を掲げて勝利した。
ミンダナオ島のイスラム系武装組織の実態は?
ミンダナオ島は韓国と同じくらいの面積で、人口は2200万人。この島では近年、カリフ制国家の樹立を画策するイスラム系武装勢力がはびこってきた。
MILFはイスラム勢力による新自治政府の設立を目指す武装組織だが、40年以上紛争を続ける政府との和平達成に向けて和平協議に応じる姿勢を見せていた。
アブサヤフはISISと関係が深いとされ、フィリピン南部でイスラム国家の樹立を目指す反政府勢力を支援してきた。身代金目的の海賊行為や、外国人や地元住民を狙った誘拐や斬首などの蛮行で悪名高い。創設者のアブドラジャク・ジャンジャラニは、国際武装組織アルカイダの指導者だったウサマ・ビンラディンに感化されたとみられている。
ISISへの忠誠を誓うマウテグループを率いるのは、オマールとアブドラのマウテ兄弟だ。フィリピン紙フィルスターによれば、マウテ兄弟は中東地域で契約社員として働きながらイスラム神学を学び、「はたから見れば残酷で時代遅れも甚だしいタリバン流の司法制度」を普及させるためにフィリピンへ帰国した。
マウテグループには80~100人のメンバーしかいないとみられている。フィリピンで活動する他のイスラム武装組織と比べれば取るに足らない数だが、イスラム過激派武装組織が扇動するハリーファ・イスラミア運動にも加わっているようだ。
懸念はフィリピンの若者の過激化
昨年9月にダバオの夜市で15人が死亡した爆弾テロや、同11月に首都マニラの米大使館付近に爆発物が仕掛けられた事件も、マウテグループの関与が疑われている。
マウテグループは麻薬取引に関与しているとみられており、今年3月にフィリピンのアルベルト・デラロサ国家警察長官は、同グループがマニラも拠点化したようだと述べた。
フィリピンのホセ・カリダ検事総長によれば、マウテグループとアブサヤフの目的は、ミンダナオ島でISISのカリフ国家を樹立すること。カリダはロイター通信の取材に対し、こう述べた。「キリスト教徒であれ、イスラム教徒であれ、彼らが異教徒とみなせば標的になる。憂慮しているのは、ISISがフィリピンにいる多数の若いイスラム教徒を過激化させていることだ」
(翻訳:河原里香)