最新記事

スポーツ

世界最高峰に立つ日本人女性冒険家の戦い

2017年4月14日(金)19時00分
ダニエル・デメトリオー

数々の最年少記録を打ち立ててきた南谷 Ko Sasaki for Newsweek

<世界の山で数々の最年少記録を塗り替えてきた、大学生冒険家の南谷真鈴が目指す北極点到達と次なる挑戦>

東京・渋谷のカフェでゆず茶を飲む20歳の大学生の南谷真鈴(みなみや・まりん)は、誰もがイメージするおしゃれ好きな若い日本人女性そのものだ。

髪はつやつやのロングで、指先にはゴールドのネイル。よく笑い、会話の端々でヒートアップする。彼女がこの数週間後に7枚重ねの重装備に身を包み、氷点下70度のなか北極点をスキーで目指す冒険に出掛けるなんて誰も想像できないだろう。

快活なルックスに鋼の精神を宿した南谷は、日本で最も若く、最も注目を浴びる冒険家の1人。彼女は10代のうちに数々の記録を打ち立てた。標高8136メートルのネパールのマナスル登頂に世界女性最年少で成功したのは18歳のとき。19歳のときには、日本人最年少でエベレスト登頂を成し遂げた。

記者が彼女と会った2月は北極に向けたトレーニングの真っただ中だった。北極点に到達すれば、南極を含む7大陸の最高峰と北極を制覇する「エクスプローラーズ・グランドスラム」を達成できる。これまでに成功したのは世界でたった51人。南谷が成し遂げればアジア人最年少記録を打ち立てられる。

南谷は冒険と勉学の時間をやり繰りしている。ユニクロなどとスポンサー契約を結んで冒険を続ける一方、早稲田大学政治経済学部に在籍。この取材の2日後には北海道に飛び、その後はフランスで最終トレーニングを行うと話してくれた。

「私が何をしているのか知ると、びっくりする人が多い」と、彼女は言う。「私が山に登るなんて想像できない、と言われる。特に普段着のときには」

冒険は時に孤独だ。南谷は登山チームの中で唯一の女性であるだけでなく、最年少になることも多い。女性からはライバル心を、男性からは偏見を持たれやすい。

【参考記事】マラソンでランナーの腎臓が壊される

自分自身を取り戻す手段

南谷が山を切望するようになったのは、それが人とつながる手段だったからだ。彼女は一人っ子で、商社勤務の父親の仕事の関係で海外を転々とした。マレーシア、上海、大連で暮らした後、12歳で香港に転居。そこで駐在員の子供が多いインターナショナルスクールに通った。

学校生活は困難だったと、南谷は振り返る。ITをフル活用する教育システムで、対面のコミュニケーションは希薄だった。授業はパソコンで行われ、ランチは1階の部屋で8階にいる親友とビデオ通話で会話しながら、といった具合だった。

家庭状況も良好とは言えなかった。父はほとんど家に帰らず、母は日本に残っていた。そんななか、13歳のときに教師に伴われ、生徒50人のグループと共に香港のランタオ島の登山に出掛けることに。山では仲間と助け合い、計画的に動かなければならない。「初めて私たちの間に人と人とのつながりが生まれた」と、彼女は言う。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ワールド

ヒズボラ、爆発の数時間前までポケベル配布=治安筋

ビジネス

米国株式市場=ダウ最高値、ナイキが高い フェデック

ビジネス

ボーイング、米2州で従業員の一時帰休開始 ストライ

ワールド

一部州で期日前投票始まる、米大統領選 
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ニュースが分かる ユダヤ超入門
特集:ニュースが分かる ユダヤ超入門
2024年9月17日/2024年9月24日号(9/10発売)

ユダヤ人とは何なのか? なぜ世界に離散したのか? 優秀な人材を輩出した理由は? ユダヤを知れば世界が分かる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    世界で最も華麗で高額な新高層ビルに差す影
  • 2
    がん治療3本柱の一角「放射線治療」に大革命...がんだけを狙い撃つ、最先端「低侵襲治療」とは?
  • 3
    NewJeans所属事務所ミン・ヒジン前代表めぐりK-POPファンの対立深まる? 
  • 4
    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…
  • 5
    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…
  • 6
    浮橋に集ったロシア兵「多数を一蹴」の瞬間...HIMARS…
  • 7
    他人に流されない、言語力、感情の整理...「コミュニ…
  • 8
    口の中で困惑する姿が...ザトウクジラが「丸呑み」し…
  • 9
    ロシア西部「弾薬庫」への攻撃で起きたのは、戦争が…
  • 10
    ロシア防空ミサイルが「ドローン迎撃」に失敗...直後…
  • 1
    「LINE交換」 を断りたいときに何と答えますか? 銀座のママが説くスマートな断り方
  • 2
    クローン病と潰瘍性大腸炎...手ごわい炎症性腸疾患に高まる【新たな治療法】の期待
  • 3
    キャサリン妃とメーガン妃の「ケープ」対決...最も優雅でドラマチックな瞬間に注目
  • 4
    北朝鮮、泣き叫ぶ女子高生の悲嘆...残酷すぎる「緩慢…
  • 5
    世界で最も華麗で高額な新高層ビルに差す影
  • 6
    北朝鮮で10代少女が逮捕、見せしめに...視聴した「禁…
  • 7
    【クイズ】自殺率が最も高い国は?
  • 8
    エリザベス女王とフィリップ殿下の銅像が完成...「誰…
  • 9
    ロシア空軍が誇るSu-30M戦闘機、黒海上空でウクライ…
  • 10
    「ポケットの中の爆弾」が一斉に大量爆発、イスラエ…
  • 1
    「LINE交換」 を断りたいときに何と答えますか? 銀座のママが説くスマートな断り方
  • 2
    エリート会社員が1600万で買ったマレーシアのマンションは、10年後どうなった?「海外不動産」投資のリアル事情
  • 3
    年収分布で分かる「自分の年収は高いのか、低いのか」
  • 4
    「まるで別人」「ボンドの面影ゼロ」ダニエル・クレ…
  • 5
    森ごと焼き尽くす...ウクライナの「火炎放射ドローン…
  • 6
    「もはや手に負えない」「こんなに早く成長するとは.…
  • 7
    「あの頃の思い出が詰まっている...」懐かしのマクド…
  • 8
    止まらない爆発、巨大な煙...ウクライナの「すさまじ…
  • 9
    ロシア国内クルスク州でウクライナ軍がHIMARS爆撃...…
  • 10
    「ローカリズムをグローバルにという点で、Number_i…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中