最新記事

スポーツ

世界最高峰に立つ日本人女性冒険家の戦い

2017年4月14日(金)19時00分
ダニエル・デメトリオー

magc170414-marin.jpg

19歳で日本人最年少のエベレスト登頂を果たした Marin Minamiya

この登山は思春期の南谷に、はるかに広い世界があるのだという感覚を与えてくれた。級友たちと一緒に山頂に立ったとき、広がる南シナ海越しに「香港のコンクリートジャングル」を目にした。その瞬間、彼女は自分の感じてきたストレスの正体を理解した。

「私たちは思った――自分たちはなんてちっぽけな存在なんだろう。日々の悩みなんて大した意味ないじゃないか、って」

それから南谷は、香港周辺で数十の山に挑戦した後、ネパールのアンナプルナのベースキャンプに行く14日間のツアーに友人たちと参加。このときもまだ13歳だった南谷は、かなたにそびえるエベレストの姿を目にし、いつか登ると心に誓った。

その後、新聞で彼女の記事を読んだ人から資金提供を受けてアルゼンチンの南米最高峰のアコンカグアに登頂。スポンサーを得るために、多数の企業に自ら売り込みをかけたりもした。

南谷の両親は彼女が17歳のときに離婚したが、高い山に登ることで彼女は地に足を着けることができた。そして彼女にとってとても必要な、自分自身をしっかりコントロールできるという感覚を守ることができた。

「自分を取り戻す手段の1つが登山だと分かっていた」と、南谷は言う。「私にとって登山は瞑想のようなもの。癒やしというだけではなく、自分に力を与えるものであり、自己を認識するものでもある。山に身を置くことで、困難を乗り越え、自身に向き合わねばと思える」

【参考記事】スーパーボウルCMは「世界一」高くても価値がある

志を同じくする仲間と

桁外れの困難に直面したこともある。15年3月、長野県・八ヶ岳の阿弥陀岳で下山中、足元の雪が崩れて頭から真っ逆さまに250メートル滑落した。「死ぬのか、と思った。落ちながら叫び、神に祈った。まだ死にたくない、助けてください、と」

祈りの直後、彼女の体は雪に捉えられ、滑落は止まった。「それまで神を信じたことがなかったけれど、この時から信じるようになった」

雪に穴を掘ってその中で一晩明かし、翌日救助された。奇跡的に無傷で済んだ南谷だったが、この事故は別の意味で彼女を傷つけた。両親が病院に見舞いに来てくれなかったからだ。

それでも南谷はそのわずか14カ月後、エベレスト登頂を果たして日本人最年少記録を塗り替えた。「あの事故で、人間はとても簡単に死ぬものだと気付いた。その事実が私をより強く駆り立てた」

地球の両極まで制覇したら、次はどこへ向かうのか。北極点到達に成功したら、セーリングで世界一周に挑む計画だと南谷は言う。今度の冒険では、共に航海する仲間を探している。求めるのは「熱意にあふれ、夢を持ち、人生にワクワクしている人。そして、仲間の能力をフルに引き出したいという私と同じ目標を持っている人」だ。

彼女が仲間を必要とする冒険を選んだことは、決して偶然ではないだろう。

[2017年4月18日号掲載]

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ワールド

カナダ、USMCA見直しへ新対米貿易交渉担当者を起

ワールド

米長官、ハンガリーとの関係「黄金時代」 オルバン氏

ビジネス

欧州外為市場=円下落、予想下回るGDP受け ドルは

ワールド

EU諸国、国益の影に隠れるべきでない 妥協必要=独
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ウクライナ戦争4年 苦境のロシア
特集:ウクライナ戦争4年 苦境のロシア
2026年2月24日号(2/17発売)

帰還兵の暴力、ドローンの攻撃、止まらないインフレ。国民は疲弊しプーチンの足元も揺らぐ

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「目のやり場に困る...」アカデミー会場を席巻したスーツドレスの「開放的すぎる」着こなしとは?
  • 2
    なぜ「あと1レップ」が筋肉を壊すのか...「高速パワートレーニング」が失速する理由
  • 3
    中国、パナマ運河の港湾喪失でパナマに報復──トランプには追い風
  • 4
    オートミール中心の食事がメタボ解消の特効薬に
  • 5
    【銘柄】マイクロソフトの株価が暴落...「AI懸念」で…
  • 6
    「ヒンメルならそうした」...コスプレイヤーが消火活…
  • 7
    「罠に嵌められた」と主張するが...欧州で次々と摘発…
  • 8
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 9
    フロリダのディズニーを敬遠する動きが拡大、なぜ? …
  • 10
    アメリカが警告を発する「チクングニアウイルス」と…
  • 1
    ウクライナ戦闘機「F-16」がロシア軍「シャヘド」を空中爆破...地上から撮影の「レア映像」を公開
  • 2
    台湾侵攻「失敗」の大きすぎる代償
  • 3
    「最恐」恐竜T・レックスの定説を覆す新研究が
  • 4
    中国、パナマ運河の港湾喪失でパナマに報復──トラン…
  • 5
    「罠に嵌められた」と主張するが...欧州で次々と摘発…
  • 6
    【銘柄】マイクロソフトの株価が暴落...「AI懸念」で…
  • 7
    「ヒンメルならそうした」...コスプレイヤーが消火活…
  • 8
    がんは何を食べて生き延びるのか?...「ブドウ糖」の…
  • 9
    なぜ「あと1レップ」が筋肉を壊すのか...「高速パワ…
  • 10
    ビジネスクラスの乗客が「あり得ないマナー違反」...…
  • 1
    【クイズ】致死率50~75%...インドで感染拡大「ニパウイルス」の感染源となる動物は?
  • 2
    ウクライナ戦闘機「F-16」がロシア軍「シャヘド」を空中爆破...地上から撮影の「レア映像」を公開
  • 3
    高市積極財政にアメリカが慌てる理由
  • 4
    セーターが消えた冬 ── 暖かさの主戦場が「インナー」…
  • 5
    台湾侵攻「失敗」の大きすぎる代償
  • 6
    「最恐」恐竜T・レックスの定説を覆す新研究が
  • 7
    イースター島の先住民から資源を略奪、島を「生きた…
  • 8
    海上自衛隊が水中無人機(UUV)を導入 中国の海軍拡…
  • 9
    中国、パナマ運河の港湾喪失でパナマに報復──トラン…
  • 10
    防衛省が「新SSM」の映像を公開、ノルウェー・コング…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中