中国河北省の新特区は何をもたらすか(特大級のプチバブル以外に...)
河北省雄県では地元住民や他地域から来た投資家たちがオフィス物件の前に集まっていた(4月3日)。経済特区バブルの発生を受け、政府は不動産販売を凍結し、物件の入り口を封鎖した Jason Lee-REUTERS
<習近平政権が新たな経済特区を設立すると発表し、かの「忖度」の国ではバブル狂想曲が生み出された。設立の目的は「大都市病の緩和」だというが、果たして深圳経済特区、上海浦東新区のような転換点となるのか>
2017年4月1日、中国政府は河北雄安新区の設立を発表した。河北省に新区と言われても、「あー、中国ってよくなんたら新区を作ってますよね。あるある」と聞き流してしまいそうな話だが、新華社が伝えたリリースを見ると、額の血管が切れそうなぐらい力が入りまくっていることがよくわかる。
「(同区は)習近平同志を核心とする党中央による重大な歴史的戦略的選択である。深圳経済特区、上海浦東新区に次ぐ全国的意義の新区であり、千年の大計、国家の大事である」
中国版「忖度」と官制バブル、「嫁募集」ジョーク
さて、森友学園の問題によって日本では「忖度」という言葉に注目が集まった。英フィナンシャル・タイムズ紙にまでとりあげられたほどだが、同じアジアの国である中国も「空気を読む力」では負けてはいない。目上・目下がはっきりしている文化的伝統に加え、新中国成立以後は中国共産党の「豹変」によって社会が激変する歴史を体験してきた。お上の顔色をうかがい、空気を読む力が半端ないのだ。
その力が海外に向けられると、昨今のTHAAD(高高度防衛ミサイル)配備に伴う韓国ボイコットとなる。中国政府は国としては「韓国製品ボイコットはやっていない。ただ国民感情により自発的にボイコットしているだけ云々」とうそぶいている。
北京市の旅行会社に対しては韓国旅行を扱うことをやめよとの通達が出回ったとリークされているが、一方で別の商品ジャンルでは、通達はなくとも自主規制をかけているケースも少なくない。空気を読まずに吊し上げを食らうのは勘弁という知恵なのだ。
この空気を読む力は、吊し上げリスクを回避するために発動するだけでなく、別の方向にも働く。お上が支持する産業分野は必ず発展するはずだとの確信から、政府が号令を下すと凄まじい勢いで資本が殺到するのだ。
李克強首相が越境ECに使われる保税区を視察すると雨後のタケノコのように越境EC業者が乱立し、シェアリングエコノミーは大事だとのたまえば関連サービスが次から次へと誕生するといった具合だ。
今回の雄安新区では「千年の大計、国家の大事」とまで煽られたのだから、もう大変である。北京市から南西に約100キロ、河北省の湖・白洋淀の北部に位置する同区は、河北省雄県、容城県、安新県の3県にまたがっているが、ほとんどが小さな町や農地である。この土地に将来北京市並みの高値がつくはずと信じた人々が発表を聞くやいなや買い占めにダッシュしたのだという。
トランク数個に現金を詰め込んだ人物が買えるだけマンションを買っていった、●●団地はすでに買い占め終了......などなど、これぞバブルという情報がネットに飛び交った。ほとんどが怪情報の類で、政府の内部情報を知り得る人間は4月1日の発表前に投資を終えていたとも言うが、中国で無数に繰り返されてきたプチバブルの中でも、近年では特大級の盛り上がりだったことは間違いない。