最新記事

日本外交

トランプ豹変でプーチンは鬱に、米ロを結ぶ「スネ夫」日本の存在感

2017年3月10日(金)11時00分
河東哲夫(本誌コラムニスト)

米ロ蜜月は幻に(ニューヨークの壁画) Spencer Platt / GETTY IMAGES

<トランプ政権の軍拡と中国の無神経で米中ロの3国支配は幻に。焦るロシアは「トランプの盟友」に擦り寄るか>

ロシア人は自分と外界を見る目が大げさで、思い上がりと落ち込みの間を行き来する。ソ連崩壊後は自信を失っていたが、00年代に原油価格の法外な高騰でGDPが5倍以上になる高度成長を果たすと再び大国気取り。世界は多極化したとか、ルーブルを国際通貨として使えとか言い出し、08年8月にはジョージア(グルジア)に攻め込んだ。

そのわずか翌月、リーマン・ショックと原油価格の急落で再び鬱となる。だが14年のウクライナ危機以降、ロシアはオバマ前米大統領の拙劣な外交で再び得意の絶頂へと駆け上がった。

オバマは国外での軍事介入を過度に避け、民主化運動後に情勢が荒れた国にも実力介入をしなかった。それをいいことに、ロシアのプーチン大統領はクリミアやシリアで小規模の軍事介入によって大きな政治得点を挙げ、見えを切ることができた。

ロシアは今ではアフガニスタン、モルドバ、カフカス諸国などでも外交攻勢を強める。折しも「親ロ的」なトランプが米大統領となったので、ついには米中と肩を並べて3国で世界を仕切ると公言し始めた。中小国はなきがごとく、力で世界を仕切るという19世紀の帝国主義的思考のままだ。

【参考記事】止まらないプーチンの暗殺指令

だが今度も躁の後に鬱がやって来た。トランプが親ロ政策を封じられたからだ。NATOはオバマ時代の合意に沿って、1月にはバルト諸国とポーランドへ約4000人の増派を開始。

先月には親ロ派の代表格、フリン米国家安全保障担当大統領補佐官が過度の親ロ性を問題視されて辞任し、後任にマクマスター陸軍中将が指名された。彼はマティス米国防長官と同様、ことさら反ロ的ではないが、中ロ両国を主要な仮想敵とする米軍の正統派に属する。

オバマ時代末期から国防総省と軍は両国を軍事面で再び突き放して抑え込み、国際法に従わせようとする相殺戦略を標榜。来年度国防予算は約10%もの増額を図っている。プーチンとの関係に前向きだったトランプも、核兵器は近代化・増強して他国の追随を許さないと明言した。

ロシアは少々の軍事力行使でアメリカの鼻を明かせなくなったのである。核ミサイル迎撃システムを宇宙に配備すると唱えてソ連を慌てさせたレーガン元大統領や、プーチンは信用できると言いながらNATO拡大の手は緩めなかったブッシュ元大統領の系譜にトランプも連なろうとしているかに見える。

苦しいときは中国との準同盟関係に頼ろうとしても、中国もトランプ政権への対処で精いっぱい。昨年の財政赤字は2兆8300億元(約47兆円)で軍拡も思うに任せない。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

焦点:大混乱に陥る米国の漁業、トランプ政権が割当量

ワールド

トランプ氏、相互関税巡り交渉用意 医薬品への関税も

ワールド

米加首脳が電話会談、トランプ氏「生産的」 カーニー

ワールド

鉱物協定巡る米の要求に変化、判断は時期尚早=ゼレン
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:まだ世界が知らない 小さなSDGs
特集:まだ世界が知らない 小さなSDGs
2025年4月 1日号(3/25発売)

トランプの「逆風」をはね返す企業の努力が地球を救う

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 2
    現地人は下層労働者、給料も7分の1以下...友好国ニジェールからも追放される中国人
  • 3
    一体なぜ、子供の遺骨に「肉を削がれた痕」が?...中国・河南省で見つかった「異常な」埋葬文化
  • 4
    なぜ「猛毒の魚」を大量に...アメリカ先住民がトゲの…
  • 5
    なぜANAは、手荷物カウンターの待ち時間を最大50分か…
  • 6
    突然の痛風、原因は「贅沢」とは無縁の生活だった...…
  • 7
    不屈のウクライナ、失ったクルスクの代わりにベルゴ…
  • 8
    アルコール依存症を克服して「人生がカラフルなこと…
  • 9
    最悪失明...目の健康を脅かす「2型糖尿病」が若い世…
  • 10
    「この巨大な線は何の影?」飛行機の窓から撮影され…
  • 1
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山ダムから有毒の水が流出...惨状伝える映像
  • 2
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き詰った「時代遅れ企業」の行く末は?【アニメで解説】
  • 3
    「低炭水化物ダイエット」で豆類はNG...体重が増えない「よい炭水化物」とは?
  • 4
    「テスラ離れ」止まらず...「放火」続発のなか、手放…
  • 5
    【独占】テスラ株急落で大口投資家が本誌に激白「取…
  • 6
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
  • 7
    800年前のペルーのミイラに刻まれた精緻すぎるタトゥ…
  • 8
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大…
  • 9
    大谷登場でざわつく報道陣...山本由伸の会見で大谷翔…
  • 10
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    テスラ離れが急加速...世界中のオーナーが「見限る」ワケ
  • 3
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 4
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛…
  • 5
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山…
  • 6
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやス…
  • 7
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 8
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 9
    テスラ販売急減の衝撃...国別に見た「最も苦戦してい…
  • 10
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中