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米軍事

イエメン戦死者と妻を責任逃れに利用したトランプ演説

2017年3月2日(木)20時40分
ミカ・ゼンコー

最終的に、この日の議会演説から人々の記憶に刻まれるのは、戦死したオーウェンズの妻キャリン・オーウェンズに向けられたスタンディングオベーションだろう。あの場面はオーウェンズの死以外のもう1つの悲劇を象徴している。あの2分間は、米議会がイエメンに費やした最も長い時間だったのだ。米軍は2002年11月にイエメンで初のドローン攻撃を実施して以降、2015年3月までに157回の空爆を行った。それ以後も、サウジアラビア主導の連合軍に対する空爆支援を続けているのだ。

【参考記事】イエメン緊迫、米軍のホーシー派攻撃にイラン軍艦が出動

オーウェンズのように使命感の強い特殊部隊員に敬意を表すもっと相応しい方法は、作戦が本当に賢明な選択だったのかどうかを疑い、今後同じ過ちを繰り返さないよう教訓を得ることだ。

そもそも米軍はなぜイエメンで、15年もの長きにわたって軍事力を行使してきたのか。アメリカが掃討しようとしてきた敵は、なぜ規模を拡大し続けているのか。

【参考記事】イエメンでの対テロ作戦はトランプ政権の失点なのか

増殖するテロ組織

米国務省が公表した2010年版の「テロ活動に関する年次報告書」は、イエメンのアルカイダ系組織「アラビア半島のアルカイダ(AQAP)」の規模について「数百人のメンバーで構成されると推計」した。それが2013年版では「1000人規模」に、2015年版では「4000人」まで増加した。米軍の対テロ作戦に対する反発や外国勢力に対する支援が、結果的にテロリストを増殖させているのだろうか。もしそうなら、なぜアメリカは介入を続けるのか。

トランプはアドリブで、戦死したオーウェンズを代弁するかのような語りで演説のこの部分を締めくくった。「彼はとても幸せだ。(スタンディングオベーションの)新記録を作ったのだから」。作戦を承認した張本人が、自分には何の責任もないと突っぱねた直後にこんな発言ができるとは、アメリカの最高司令官も地に落ちたものだ。この状況は、米軍だけでなく国家にとっても限りなく有害だ。アメリカ人にはそのことに気づいてほしい。

From Foreign Policy Magazine

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