最新記事

日本社会

日本の未来を予見させる、韓国高齢者の深刻な貧困問題

2017年2月8日(水)17時10分
舞田敏彦(教育社会学者)

ところでお隣の韓国は、高齢層の貧困率が45.7%と飛び抜けて高い。高齢者の2人に1人が貧困状態にある。

韓国は儒教社会なので、子が親の面倒をみる伝統が強かったが、近年その伝統が急速に廃れている。その一方で、国による社会保障(公的年金等)は著しく脆弱。このために生活苦に陥る高齢者が多い。

韓国の高齢者の苦境は、自殺統計にはっきりと表れている。<図1>で見られるように、韓国の高齢者の自殺率は突出して高い。75歳以上の自殺率は日本の3倍以上だ。

maita170208-chart02.jpg

韓国の最近の高齢人口率は13%程度だが、今後さらに高齢化が進めば、高齢者の貧困は社会の根幹を揺るがす問題となるだろう。

【参考記事】貧困層の健康問題から目をそむける日本

しかし高齢化のレベルを見れば、日本の方がはるかに進んでいる。なおかつ高齢者の貧困率は17.0%(<表1>の34カ国中5位)にも達しているのだから、問題が深刻なのは日本も同じだ。韓国の現状は「対岸の火事」ではなく、近い将来の日本社会を予見させるものだ。

医療制度の充実によって、先進国では「人生100年の時代」となりつつある。この社会変化を厄災ではなく恩恵にするためには、社会保障の整備も大事だが、「教育期→仕事期→引退期」という直線型のライフコースを変革する必要もある。

高齢期を「引退期」としてしか過ごせないのは、大きな苦悩の源泉となる。希望するならば仕事をして収入を得る、再び教育を受けて高度なスキルを習得する......。そのようなことを可能にしなければならない。

「生物学的な年齢(エイジ)と人生の段階(ステージ)が硬直的に結びついている社会では、『人生100年』という贈り物は厄災にしかならない」――(リンダ・グラットン、アンドリュー・スコット著/池村千秋訳『ライフ・シフト-100年時代の人生戦略-』東洋経済新報社、2016年)。

<資料:OECD「Income Distribution Database(IDD)」、
    WHO「Mortality Database」>

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米2月総合PMI、1年5カ月ぶり低水準 トランプ政

ワールド

ロシア、ウクライナ復興に凍結資産活用で合意も 和平

ビジネス

AIが投資家の反応加速、政策伝達への影響不明=ジェ

ワールド

不法移民3.8万人強制送還、トランプ氏就任から1カ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ウクライナが停戦する日
特集:ウクライナが停戦する日
2025年2月25日号(2/18発売)

ゼレンスキーとプーチンがトランプの圧力で妥協? 20万人以上が死んだ戦争が終わる条件は

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン化」の理由
  • 3
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される【最新研究】
  • 4
    1888年の未解決事件、ついに終焉か? 「切り裂きジャ…
  • 5
    飛行中の航空機が空中で発火、大炎上...米テキサスの…
  • 6
    ソ連時代の「勝利の旗」掲げるロシア軍車両を次々爆…
  • 7
    動かないのに筋力アップ? 88歳医大名誉教授が語る「…
  • 8
    私に「家」をくれたのは、この茶トラ猫でした
  • 9
    ビタミンB1で疲労回復!疲れに効く3つの野菜&腸活に…
  • 10
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べて…
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される【最新研究】
  • 3
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ...犠牲者急増で、増援部隊が到着予定と発言
  • 4
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン…
  • 5
    動かないのに筋力アップ? 88歳医大名誉教授が語る「…
  • 6
    朝1杯の「バターコーヒー」が老化を遅らせる...細胞…
  • 7
    7年後に迫る「小惑星の衝突を防げ」、中国が「地球防…
  • 8
    墜落して爆発、巨大な炎と黒煙が立ち上る衝撃シーン.…
  • 9
    ビタミンB1で疲労回復!疲れに効く3つの野菜&腸活に…
  • 10
    「トランプ相互関税」の範囲が広すぎて滅茶苦茶...VA…
  • 1
    週刊文春は「訂正」を出す必要などなかった
  • 2
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 3
    【一発アウト】税務署が「怪しい!」と思う通帳とは?
  • 4
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」…
  • 5
    「健康寿命」を延ばすのは「少食」と「皮下脂肪」だ…
  • 6
    1日大さじ1杯でOK!「細胞の老化」や「体重の増加」…
  • 7
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 8
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 9
    有害なティーバッグをどう見分けるか?...研究者のア…
  • 10
    世界初の研究:コーヒーは「飲む時間帯」で健康効果…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中