収入を決めるのは遺伝か親の七光りか:行動遺伝学者 安藤教授に聞く.2
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行動遺伝学が明らかにした知見の1つは、収入にも遺伝が影響しているということです。ならば、私たちの人生は生まれた時点で概ね決まってしまうのか......? 行動遺伝学者 安藤寿康教授に尋ねました。
(その1はこちら)
•安藤寿康著『日本人の9割が知らない遺伝の真実』(SB新書)
収入に与える遺伝の影響は45歳がピーク
――先の記事で特に反応の大きかったトピックが「収入に与える遺伝の影響は、歳を取るほど大きくなる」です。20歳くらいだと、遺伝よりも共有環境の方が収入の個人差に影響するのだけれど、年齢が上がるにつれ遺伝の影響が大きくなっていくと。「45歳で遺伝の影響はピークを迎える」ということなんですが、これはどう考えればいいんでしょう。どういう経験を積んでも、結局は持って生まれた遺伝子セットによって収入もある程度決まってしまうと言うことなんですかね?
安藤:遺伝の影響が大きくなるというのは、確かにわかりにくいですね。山形や中室ら研究者が行った研究がどういうことを表しているのかイメージしやすいように、双生児で極端な例え話をしてみます。
ある一卵性双生児の1人は、大学卒業後、なりたい職業が思いつかなくて、その気もなく受けた会社にことごとく落とされたのでフリーターになり、もう片方はやっぱり特になりたい職業が思いつかなかったけれど、たまたまその気もなく受けた会社から気に入られたのでとりあえず会社勤めをしたとしましょう。でも、それから数十年して45歳くらいになると、だいたい似たような社会的ポジションについている可能性が高いということなんです。フリーターになった前者はそのままフリーターを続け、後者は会社に入ったもののやっぱり合わなくてフリーター的な生き方を選ぶかもしれない。あるいは、フリーターになった前者がやっぱりどこかの会社で頑張ろうという気になって、後者と同じような働き方をするようになるかもしれない。そういう傾向が見られるということです。
一方、共有環境が小さくなるということは、次のように説明できます。ある二卵性双生児の1人は外向的でコミュ力が高いけれど、もう一方はそれほど高くない。親が金融関係で活躍していたので、そのコネでどちらも名の通った銀行に勤め、若いころのお給料はどちらもよかった。しかし外向的な方はその後海外に赴任して業績を上げどんどん出世したけれど、内向的な方は海外赴任の機会もあったのに辞退したりしてパッとせず、ずっと平社員にとどまった......みたいな感じです。
もちろん、どういう仕事に就くことになるかについては、たまたま遭遇した社会的な文脈も大きいですよ。例えば、一卵性双生児の片方が日本で銀行員になり、片方が何かの事情でアフリカに行くことになったとして、後者がアフリカでは日本の銀行員で発揮されるような素質では通用しないかわりに、まったく違う職業適性を見つけることもあり得ます。それは遺伝と環境の交互作用、つまり違う環境ではちがった素質が出てくるという現象として理解されます。
収入と遺伝の相関を調べた研究が示しているのは、少なくとも今の日本において、学校を卒業してから20数年間のうちに人が行う収入に関わる行動の出方や環境の選択には遺伝の影響があり、人はある程度、その社会の中で向かうべくして向かう方向へ動いているらしい、ということなんです。
――一卵性双生児であっても、入試の成績が数ポイント違ったことで違う学校に進み、それによって人生が大きく変わってくることはありそうな気がしますけど。
安藤:程度問題ですから、多少の差は出てくる可能性はもちろんあります。しかし、この研究が示しているのは、全体として見ると学校の違いがその後の人生における収入の劇的な差にはつながっていないということですね。学校の違いはもともと能力や才能の違いを反映していて、たまたま違った学校に行かざるを得なくなったとしても、結局はもともとの持ち味がその後のいろんな場面でものを言ってくる、ということなんだと思います。