最新記事

宇宙政策

宇宙開発は六次産業化を目指せ

2016年12月16日(金)17時56分
鈴木一人(北海道大学公共政策大学院教授)

北海道大樹町という「一次産業」を提供する場

 こうしたグローバルなトレンドの中、北海道における宇宙開発を考える際に重要なのは、北海道には大樹町という「一次産業」を提供する場があり、そこでインターステラテクノロジズなどがロケットを作るという「二次産業」を誘致するところまでは来たが、そこから「三次産業中心型」となる、衛星を活用したサービスを提供する企業を集めるところにある。インターステラテクノロジズは小型衛星を打ち上げるための小型ロケットの開発を進めており、その小型衛星を複数機結び付け、コンステレーションとして運用することでサービスを展開する企業にとっては大変ありがたいロケットである。

 というのも、小型衛星はこれまで大型ロケットに相乗りさせてもらうか、無理やり国際宇宙ステーションから放出するといった方法でしか軌道に投入することが出来ず、望んだ軌道に投入したり、望んだ時期に打ち上げることが難しかったりする。ロシアなどの小型ロケットを使う場合もあるが、それらを利用できる機会は限られている。そのため、小型衛星打ち上げに特化したインターステラテクノロジズのロケットなどは、「三次産業中心型」のサービスを提供する企業にも有益なものである。

 それらの企業を集め、大樹町の射場を軸に、小型ロケットと小型衛星の開発を進め、その衛星を使ってサービスを提供することで「六次産業化」していくことが可能となり、北海道が「六次産業化」した宇宙開発の一大拠点になるという可能性すら秘めていると考えている。

 新しい時代の流れの中で、これまでの「二次産業中心型」の宇宙開発から「六次産業化」していくことは、ちょうど農業が「一次産業」から「六次産業化」していくこととパラレルな現象だと思う。この流れをつかめるかどうかは、大樹町を始め、関係者が「六次産業化」を目標とし、一次産業としての射場の整備を進め、二次産業に必要な電力や設備を整備し、三次産業が求めるインフラを整えていくことであろう。それが北海道の次世代の経済を担っていくことを期待したい。


[プロフィール]
鈴木一人
北海道大学公共政策大学院教授。専門は国際政治経済学、ヨーロッパ研究、科学技術政策、宇宙政策など。2011年3月に『宇宙開発と国際政治』(岩波書店)を上梓。Twitter:@KS_1013 ウェブサイト:Kazuto Suzuki's Virtual Office


※当記事は鈴木一人さんのブログ「社会科学者として」からの転載です。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ビジネス

豊田織機の非公開化報道、トヨタ「一部出資含め様々な

ビジネス

中国への融資終了に具体的措置を、米財務長官がアジア

ビジネス

ベッセント長官、日韓との生産的な貿易協議を歓迎 米

ワールド

アングル:バングラ繊維産業、国内リサイクル能力向上
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
2025年4月29日号(4/22発売)

タイ・ミャンマーでの大摘発を経て焦点はカンボジアへ。政府と癒着した犯罪の巣窟に日本人の影

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 2
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは? いずれ中国共産党を脅かす可能性も
  • 3
    トランプ政権の悪評が直撃、各国がアメリカへの渡航勧告を強化
  • 4
    健康寿命は延ばせる...認知症「14のリスク要因」とは…
  • 5
    アメリカ鉄鋼産業の復活へ...鍵はトランプ関税ではな…
  • 6
    関税ショックのベトナムすらアメリカ寄りに...南シナ…
  • 7
    ロケット弾直撃で次々に爆発、ロシア軍ヘリ4機が「破…
  • 8
    ロシア武器庫が爆発、巨大な火の玉が吹き上がる...ロ…
  • 9
    ビザ取消1300人超──アメリカで留学生の「粛清」進む
  • 10
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 1
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 2
    「生はちみつ」と「純粋はちみつ」は何が違うのか?...「偽スーパーフード」に専門家が警鐘
  • 3
    「スケールが違う」天の川にそっくりな銀河、宇宙初期に発見される
  • 4
    【クイズ】「地球の肺」と呼ばれる場所はどこ?
  • 5
    女性職員を毎日「ランチに誘う」...90歳の男性ボラン…
  • 6
    教皇死去を喜ぶトランプ派議員「神の手が悪を打ち負…
  • 7
    『職場の「困った人」をうまく動かす心理術』は必ず…
  • 8
    自宅の天井から「謎の物体」が...「これは何?」と投…
  • 9
    「100歳まで食・酒を楽しもう」肝機能が復活! 脂肪…
  • 10
    トランプ政権はナチスと類似?――「独裁者はまず大学…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった...糖尿病を予防し、がんと闘う効果にも期待が
  • 3
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 4
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 5
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 6
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 7
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」では…
  • 8
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 9
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 10
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中