最新記事

タイ

タイ新国王が即位しても政情不安は解消されない

2016年12月2日(金)16時36分
ロビー・グラマー

Chaiwat Subprasom-REUTERS

<国民の人気が高かったプミポン前国王の後継として、ワチラロンコン新国王が即位した。皇太子時代の評判はあまり良くない新国王だが、タイの政治対立を収めることはできるのか>(写真:昨年5月に王室行事に参列したワチラロンコン皇太子〔当時〕)

 今月1日、タイで1946年以来70年ぶりの新国王が即位した。

 ワチラロンコン皇太子(64歳)が正式に新国王となり、10月13日にプミポン前国王が死去して以来7週間に渡った空位期間は終了した。政治空白を懸念した多くの人々もこれで安心するだろう。政治が不安定なタイでは、伝統的に王室が大きな影響力を持っている。

 新国王には、タイの厳格な不敬罪が適用されるため、批判を受けることはない。だからと言って、新国王がすぐに国民からの尊敬を得られるわけではない。ほとんどの国民は、前国王の時代しか知らない。そして現在のタイは、軍部を中心とする既得権益層と、タクシン元首相を支持するタクシン派との対立が続いている。

 プミポン前国王の人気の高さを考えれば、ワチラロンコン新国王はまだまだ国民の信頼を勝ち得ていない。1970年に渡ってタイを統治したプミポンは、政治的安定の要とみなされ、度重なる軍事クーデターやクーデター未遂、新憲法への移行議論など様々な政治的混乱を乗り越えてきた。1992年には、軍事政権と民主化勢力が対立したクーデターで和平を呼び掛け、国民の人気を不動のものにした。

 新国王には大変な努力が必要だ。王位継承者に指名されたのは1972年だが、その後も生活の大半をドイツで過ごし、国民は新国王についてほとんど何も知らない。王位継承について公に議論することが不敬罪で違法とされているせいもある。

眉をひそめる噂

 そして国民が知る新国王に関するいくつかの情報は、眉をひそめるようなものだ。

「率直に言って、私の息子の皇太子は、ちょっと『ドン・ファン(プレイボーイの放蕩息子)』のようなところがある」――1982年の米ウォール・ストリート・ジャーナル紙のインタビューに対して、前国王妃シリキットはそう語っている。(王室の否定的な記載があるこのインタビューはタイ国内では掲載不可)

 もちろんあの、「空軍大将フーフー」のエピソードも忘れることはできない。皇太子時代の3番目の妃スリラスミのペットの白いプードルは、タイ空軍の最高位の称号を与えられていた。昨年フーフーが死亡した際には、仏式にのっとり4日間の葬儀の後に火葬された。

【最高記事】ペット犬の名は「空軍大将」、タイ次期国王の奇行の数々

 青年時代には軍隊での訓練も経験している新国王だが、軍政とは緊張関係にあると報じられている。タイ軍部は、政治家が意に添わない場合、クーデターを起こす傾向が強い。タイでは2005年のクーデター以降、政治的混乱が続いている。

From Foreign Policy Magazine

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

トランプ氏、米軍制服組トップ解任 指導部の大規模刷

ワールド

アングル:性的少数者がおびえるドイツ議会選、極右台

ワールド

アングル:高評価なのに「仕事できない」と解雇、米D

ビジネス

米国株式市場=3指数大幅下落、さえない経済指標で売
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ウクライナが停戦する日
特集:ウクライナが停戦する日
2025年2月25日号(2/18発売)

ゼレンスキーとプーチンがトランプの圧力で妥協? 20万人以上が死んだ戦争が終わる条件は

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン化」の理由
  • 3
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される【最新研究】
  • 4
    1888年の未解決事件、ついに終焉か? 「切り裂きジャ…
  • 5
    飛行中の航空機が空中で発火、大炎上...米テキサスの…
  • 6
    ソ連時代の「勝利の旗」掲げるロシア軍車両を次々爆…
  • 7
    私に「家」をくれたのは、この茶トラ猫でした
  • 8
    動かないのに筋力アップ? 88歳医大名誉教授が語る「…
  • 9
    メーガン妃が「アイデンティティ危機」に直面...「必…
  • 10
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べて…
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される【最新研究】
  • 3
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ...犠牲者急増で、増援部隊が到着予定と発言
  • 4
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン…
  • 5
    動かないのに筋力アップ? 88歳医大名誉教授が語る「…
  • 6
    朝1杯の「バターコーヒー」が老化を遅らせる...細胞…
  • 7
    7年後に迫る「小惑星の衝突を防げ」、中国が「地球防…
  • 8
    墜落して爆発、巨大な炎と黒煙が立ち上る衝撃シーン.…
  • 9
    ビタミンB1で疲労回復!疲れに効く3つの野菜&腸活に…
  • 10
    「トランプ相互関税」の範囲が広すぎて滅茶苦茶...VA…
  • 1
    週刊文春は「訂正」を出す必要などなかった
  • 2
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 3
    【一発アウト】税務署が「怪しい!」と思う通帳とは?
  • 4
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」…
  • 5
    「健康寿命」を延ばすのは「少食」と「皮下脂肪」だ…
  • 6
    1日大さじ1杯でOK!「細胞の老化」や「体重の増加」…
  • 7
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 8
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 9
    有害なティーバッグをどう見分けるか?...研究者のア…
  • 10
    世界初の研究:コーヒーは「飲む時間帯」で健康効果…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中