マルコス元大統領を英雄墓地に埋葬したがるドゥテルテの思惑
なぜ今そこまで、マルコス元大統領の埋葬が社会問題化しようとしているのか。ドゥテルテ大統領の強い思い入れがその背景にある。ドゥテルテ大統領の父親はマルコス内閣で閣僚を務めたことがあり、大きな恩義を感じていることがその理由とされている。さらに「ドゥテルテが目指す理想の大統領がマルコスであり、マルコスに追いつき、最終的には追い越し、自らが英雄として国民の記憶に残りたいという希望を抱いている」とドゥテルテ側近に近いマスコミ関係者は解説する。
「火中の栗」を拾う
賛否両論が渦巻くマルコス元大統領の英雄墓地埋葬実現で、ドゥテルテ大統領は政界になお一定の影響力と一部国民の根強い人気を残すマルコス一族との関係を強化し、自らもいずれは「英雄」と呼ばれることを夢見ている、というのだ。
国民の支持率が依然として80%以上と高いこの時期に歴代政権がなしえなかった「マルコスの英雄墓地埋葬」という「火中の栗」を拾おうとしているドゥテルテ大統領。今後激しくなることが予想される反対派の抵抗運動がどこまで国民的運動に広がるかも注目となる。
さらにデモや対抗運動をドゥテルテ大統領が武力で弾圧したりすれば、それこそ自らが密かに目指すマルコス像に一歩近づくことなるが、それは「英雄」ではなく「独裁者」への道となる。
これまでの失言、暴言で常套手段となった「修正や撤回」のように反対運動の盛り上がりを見て「やはり埋葬は止めた」となることも十分考えられる。それはドゥテルテ大統領がその選択が「英雄への道」と判断した結果といえるだろう。
[執筆者]
大塚智彦(ジャーナリスト)
PanAsiaNews所属 1957年東京生まれ。国学院大学文学部史学科卒、米ジョージワシントン大学大学院宗教学科中退。1984年毎日新聞社入社、長野支局、東京外信部防衛庁担当などを経てジャカルタ支局長。2000年産経新聞社入社、シンガポール支局長、社会部防衛省担当などを歴任。2014年からPan Asia News所属のフリーランス記者として東南アジアをフィールドに取材活動を続ける。著書に「アジアの中の自衛隊」(東洋経済新報社)、「民主国家への道、ジャカルタ報道2000日」(小学館)など