世界経済に巨大トランプ・リスク
それでもトランプの勝利を受けて、金融、医療、一部のエネルギー関連株は急上昇した。選挙戦中は労働者の味方を自称し、クリントンとウォール街の「癒着」を批判していたトランプだが、その一方で、オバマ政権が金融危機の再来を防ぐために導入した金融改革規制法「ドッド・フランク法」の撤廃を叫んできた。
「ドッド・フランク法は銀行家の手足を縛っている。そのために銀行は融資を行えず、雇用が生まれない。人々が職にありつけないのはそのためだ。この弊害をなくさねばならない」トランプは有権者にそう訴えてきた。
オバマ政権の医療保険制度改革(オバマケア)の撤廃も公約の1つだ。医療分野の規制が緩和されれば、新薬などへの投資が活発化すると予想され、トランプ勝利後、医療・製薬関連の株価が跳ね上がった。
クリーンエネルギー株は下落
エネルギー部門の一部もトランプ勝利に沸いた。トランプは石炭火力発電を規制するオバマ政権の環境政策を撤廃すると公約している。実現すれば、アーチ・コール、コンソル・エナジーなど石炭採掘会社は息を吹き返すだろう。一方、トランプは発効したばかりの「パリ協定」からの離脱を掲げており、アメリカの温暖化防止の取り組みは後退すると予想される。その見通しからクリーンエネルギー関連株は軒並み下落した。
防衛産業もトランプ新大統領を歓迎している。トランプは歳出の強制削減による国防費の上限を廃止し、軍備を拡大すると公約してきたからだ。投票日の翌朝、ノースロップ・グラマンとロッキード・マーチンは約5%、レイセオンは7.6%と、防衛関連株は大幅に上昇した。
富裕層の大幅減税など、トランプが掲げた経済政策の一部は議会の承認が必要になるが、選挙戦中にポール・ライアン下院議長の「裏切り」を批判したトランプが議会とうまくやっていくのは難しいだろう。
「政策を通したいなら、何らかの形でライアンの協力を取り付ける必要がある」と、ケイトー研究所のエコノミスト、ジェラルド・オドリスコルは言う。