最新記事

直接民主制

一般人に大切な決断を託す国民投票はこんなに危険

2016年10月4日(火)18時50分
シボーン・オグレイディ

Dylan Martinez-REUTERS

<ブレグジットやハンガリーの難民受け入れ拒否など国民投票で国民が出す愚かな結果を見るにつけ、ナチスドイツを思い出す> (写真は2014年、英連邦からの独立の是非を問う住民投票を控えたスコットランド人)

 アドルフ・ヒトラーは、ナチスドイツの支配を強固なものにするために4度の国民投票を実施した。第2次大戦が終わるとドイツでは、もう二度と市民の手に政治をゆだねる直接民主制には戻るまいと誰もが心に決めていた。そして、国民に選ばれた代表に決定権を託したのだ。

【参考記事】EU離脱派勝利が示す国民投票の怖さとキャメロンの罪

 ドイツの人々は知っていたのかもしれない。今年になってわれわれが何かを学んだとすればそれは、国民投票を行って重要な決定を一般人に託すことの危険性だ。イギリスのブレグジット(EU離脱)を決めた国民投票はもちろんのこと、先週末のコロンビア和平の是非を問う国民投票、ハンガリーの難民受け入れに関する国民投票にいたるまで、われわれは国民が馬鹿な選択ばかりするのを見てきた。コロンビアでは半世紀続いた戦争を終わらせる和平合意が否決され、ハンガリーは難民受け入れを拒絶した(ただし投票率が低く成立しなかった)。

 愚かな国民投票・住民投票は他にもある。

【参考記事】ヨーロッパで政争の具にされる国民投票

スイス:モスクのミナレット建設禁止

 スイスでは2009年、右派政党の扇動により、モスクがミナレット(尖塔)を建設するのを禁止するべきかどうかという「重大な」問題が国民投票にかけられることになった。有権者の57.5パーセントがミナレット禁止を支持し、ミナレットの建設禁止はスイス憲法に書き加えることになった。

 当時のスイスには約150のモスクがあり、そのなかでミナレットがあるのはたった2棟だった。ミナレットは、礼拝を広く呼び掛けるためのもので、それがスイス人には脅威に感じられたわけだが、どのモスクも呼び掛けには使っていなかった。

クリミア半島のロシア併合

 2014年にロシア軍がクリミア半島を制圧して1カ月ほど経ったころ、クリミアではロシア連邦への正式併合を決める住民投票が行われた。ロシアのウラジミール・プーチン大統領は、クリミアの人々の望みを尊重すると述べたが、幸運なことに住民の95.5パーセントがロシア併合に賛成した。アメリカはこの住民投票と併合は違法だと主張している。

カリフォルニア(米)同性婚の禁止

 カリフォルニアでは2008年11月、先に同性婚を合法と認めたカリフォルニア州最高裁の判決を、住民投票が覆した。同性カップルによる結婚は禁じられ、過去の同性婚をすべて無効になった。その後2013年に同性婚は復活したが、いつまた馬鹿な住民投票や国民投票が平穏な市民生活の妨げになるかわからない。

From Foreign Policy Magazine

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

25年度予算が成立、歳出総額115兆円 衆院で再議

ビジネス

日銀、10―25年の国債買い入れ初減額 「買入比率

ビジネス

ハチソンの港湾売却計画、親中紙が再考促す全面記事 

ワールド

ロシア、2夜連続でハリコフ攻撃 1週間で無人機10
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:まだ世界が知らない 小さなSDGs
特集:まだ世界が知らない 小さなSDGs
2025年4月 1日号(3/25発売)

トランプの「逆風」をはね返す企業の努力が地球を救う

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 2
    ガムから有害物質が体内に取り込まれている...研究者が警鐘【最新研究】
  • 3
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「最大の戦果」...巡航ミサイル96発を破壊
  • 4
    磯遊びでは「注意が必要」...6歳の少年が「思わぬ生…
  • 5
    「炊き出し」現場ルポ 集まったのはホームレス、生…
  • 6
    メーガン妃のパスタ料理が賛否両論...「イタリアのお…
  • 7
    3500年前の粘土板の「くさび形文字」を解読...「意外…
  • 8
    なぜ「猛毒の魚」を大量に...アメリカ先住民がトゲの…
  • 9
    突然の痛風、原因は「贅沢」とは無縁の生活だった...…
  • 10
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 1
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山ダムから有毒の水が流出...惨状伝える映像
  • 2
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き詰った「時代遅れ企業」の行く末は?【アニメで解説】
  • 3
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 4
    【独占】テスラ株急落で大口投資家が本誌に激白「取…
  • 5
    800年前のペルーのミイラに刻まれた精緻すぎるタトゥ…
  • 6
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「…
  • 7
    一体なぜ、子供の遺骨に「肉を削がれた痕」が?...中…
  • 8
    ガムから有害物質が体内に取り込まれている...研究者…
  • 9
    「テスラ離れ」止まらず...「放火」続発のなか、手放…
  • 10
    「この巨大な線は何の影?」飛行機の窓から撮影され…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 3
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛ばす」理由とは?
  • 4
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山…
  • 5
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやス…
  • 6
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 7
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 8
    テスラ販売急減の衝撃...国別に見た「最も苦戦してい…
  • 9
    テスラ離れが急加速...世界中のオーナーが「見限る」…
  • 10
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中