最新記事

シリア内戦

オバマが見捨てたアレッポでロシアが焦土作戦

2016年10月3日(月)17時13分
モナ・アラミ(米大西洋評議会)

Abdalrhman Ismail-REUTERS

<停戦が事実上崩壊したシリアのアレッポが今、ロシアとシリア政府軍の「武器実験場」と化している。オバマは口だけで手出しはできないと、空からありとあらゆる武器を投下しているのだ> (写真:アレッポへの空爆は再び激しさを増している)

 シリア北部の都市アレッポでは、この8日間だけで1000人以上の住民がロシアの空爆で殺された。ロシアとシリアのアサド政権の新たな攻勢は、アメリカの大統領が変わる前に奪えるものは奪っておこうという計算と、もう少しで勝利に手が届くという確信の表れだ。

 アメリカの国連大使サマンサ・パワーは先週初め、ロシアとロシアの支援を受けたアサド政権軍が反政府勢力の支配地域に対して行っている無差別攻撃を「野蛮行為」と批判した。しかしパワーの言葉とは裏腹に、バラク・オバマ米大統領はロシアとシリアがアレッポで焦土作戦を行うのをただ見ているだけだ。

【参考記事】人道支援トラックに空爆、シリア和平の希望が潰える


 アレッポではこの4年、アサド体制を支持する勢力と反政府勢力の内戦が続いてきたが、シリアの国連大使バシャル・ジャアファリは今週、シリア政府は近くアレッポを奪還すると宣言した。かつてシリアで最も経済的に繁栄したアレッポを取り戻さない限りシリアを取り戻すことはできないが、アサド政権はその目標に近づきつつあるというのだ。

 一方の反政府勢力は、アレッポを失えば意気阻喪する。アサド政権の崩壊がまだまだ遠いと考え、戦闘継続に迷いが生じるだろう。

「武器実験場」と化す

 アサドとロシアに勇気を与えているのは、口では虐殺を非難しても、軍事行動は起こさないオバマ政権の態度だ。アレッポは今や、「武器試験場」と化している。アレッポに援助物資を運び込む車列が標的にされたのは記憶に新しい。空爆でトラック18台が大破し、ボランティア12人が死亡した。焼夷弾も投入され、周囲の壁は焼け焦げている。ロシア軍は空爆に燃焼温度が1000度に達するテルミット弾や白リン弾を使用。ベトナム戦争で使われたナパーム弾のようなものだ。核兵器に次ぐ破壊力をもつサーモバリック爆弾や真空爆弾も使った。アサド政権は相変わらずたる爆弾を使っている。ドラム缶に火薬や金属片を詰めた簡単な武器だが、金属片があちこちに飛び散る無差別殺傷兵器。アサドはこれで2014年以降3000人以上を殺している。アレッポ市内だけで1日8人の計算だ。国連の化学兵器禁止条約に加盟しているにもかかわらず、化学兵器も使用し続けている。

【参考記事】ロシア「アメリカは事実上のテロ支援国家」

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

韓国最大野党の李代表に逆転無罪判決、大統領選出馬に

ビジネス

独VWの筆頭株主ポルシェSE、投資先の多様化を検討

ビジネス

日産、25年度に新型EV「リーフ」投入 クロスオー

ビジネス

通商政策など不確実性高い、賃金・物価の好循環「ステ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:まだ世界が知らない 小さなSDGs
特集:まだ世界が知らない 小さなSDGs
2025年4月 1日号(3/25発売)

トランプの「逆風」をはね返す企業の努力が地球を救う

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き詰った「時代遅れ企業」の行く末は?【アニメで解説】
  • 2
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山ダムから有毒の水が流出...惨状伝える映像
  • 3
    【独占】テスラ株急落で大口投資家が本誌に激白「取締役会はマスクCEOを辞めさせろ」
  • 4
    「トランプが変えた世界」を30年前に描いていた...あ…
  • 5
    「テスラ離れ」止まらず...「放火」続発のなか、手放…
  • 6
    トランプ批判で入国拒否も?...米空港で広がる「スマ…
  • 7
    「悪循環」中国の飲食店に大倒産時代が到来...デフレ…
  • 8
    【クイズ】アメリカで「ネズミが大量発生している」…
  • 9
    「低炭水化物ダイエット」で豆類はNG...体重が増えな…
  • 10
    老化を遅らせる食事法...細胞を大掃除する「断続的フ…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛ばす」理由とは?
  • 3
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山ダムから有毒の水が流出...惨状伝える映像
  • 4
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 5
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 6
    「低炭水化物ダイエット」で豆類はNG...体重が増えな…
  • 7
    「テスラ離れ」止まらず...「放火」続発のなか、手放…
  • 8
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 9
    【クイズ】世界で2番目に「レアアース」の生産量が多…
  • 10
    古代ギリシャの沈没船から発見された世界最古の「コ…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    テスラ離れが急加速...世界中のオーナーが「見限る」ワケ
  • 3
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 4
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛…
  • 5
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやス…
  • 6
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山…
  • 7
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 8
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 9
    テスラ販売急減の衝撃...国別に見た「最も苦戦してい…
  • 10
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中